北朝鮮「金正恩への奇妙な個人崇拝」が合理的な訳 ばかげた神話の影にある「忠誠審査」という戦略

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フルシチョフは泳げなかったので、浮き袋をつけ、両者は外交を行い、戦略を話し合った。両者の通訳は、言葉を交わす2人を追ってプール脇を行き来した。

独裁者が自ら刷新を行うこともある。独裁者は選挙で不正を働くのがうまくなる。過去には選挙の不正は主に、票を水増しするという、あまり芸のない方法で行われていた。原始的な方法だ。犯人は、捕まる可能性が高かった。

不正が行われれば、その瞬間に人々が気づくことができたし、犯人がヘマをすることもあった。露見したときには、たとえば、500人しか有権者がいない選挙区でなぜ1000票も投票されていたのかは、説明のしようがない。それはいわば未開の分野で、イノベーションの余地がたっぷりあった。

消えるインクに出生証明書の発行停止まで

2000年代初めに、ウクライナの政府は独創的な戦略を立てた。野党側の票が集中している地域では、投票日はごく普通に過ぎたように見えた。人々はいつもどおり票を投じた。ところが、役人たちが開票作業に取り掛かると、投票用紙はすべて白紙だった。

抗議のための白紙投票だったわけではない。野党側が優勢な地区の投票所のペンを、政権側がインクの消えるペンと取り替えておいたのだ。有権者が選んだ候補者につけた印は、数分後に消えた。不正の仕方が巧みになっていたわけだ。

ジンバブエでは、政府は実を結ぶまで18年かかる計画まで考えた。役人たちが、野党側が優勢な地域で生まれた赤ん坊の出生証明書の発行を組織的に怠ったのだ。

その赤ん坊たちが成人して投票――与党に敵対する投票である可能性が圧倒的に高い――のための登録に行くと、受けつけてもらえなかった。身元を証明できなかったからだ。

「私たちを打ち負かすためには、朝よほど早く目覚めなくてはなりません」と、ジンバブエのある政府役人は、バーミンガム大学のニック・チーズマン教授に語った。

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