北朝鮮「金正恩への奇妙な個人崇拝」が合理的な訳 ばかげた神話の影にある「忠誠審査」という戦略

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これらはみな、腐敗した邪悪な政府が、さらに腐敗して邪悪になるのに上達する例だ。さらに悪質になったのは戦術が進歩したからであり、以前は正直で道徳的だった気質が権力によって蝕まれたからではなかった。

だが、誰か――カクテルパーティで洒落た人間に見えるために、さまざまな名言などを暗記した、鼻持ちならない人のことが多い――が、例のアクトン卿の使い古された金言をひけらかしたときにはいつも、別の現象も持ち出されることが多い。すなわち、誇大妄想だ。そういう人間は、こんなことを尋ねる。

「独裁者は誰も彼もが、頭がいかれてしまうのはなぜか? 金正恩(キム・ジョンウン)は、まだよちよち歩きのときに車の運転を覚えたと言っているのを、知っていましたか? なぜ独裁者はみな、自分自身について、正気の人間ならとうてい信じようもないおかしな神話をでっち上げるのか?」。

それから、その人間は鼻持ちならない輩(やから)だから、気取った笑みを浮かべながら、その質問に自ら答える。「それは、権力は腐敗し、絶対的な権力は絶対的に腐敗するからです」

これは、カクテルパーティで気の利いた口を利く尊大な人が間違っている例だ――もっとも、けっして最初の例ではないが。

金王朝の「チュチェ思想」

独裁者はとんでもない行動をする。彼らの神話(政治学の世界では「個人崇拝」という)は奇妙であることが多い。だがその行動は、じつは戦略的で合理的であり、頂点にとどまり続ける方法を学習した結果、採用したものだ。

北朝鮮では、金(キム)王朝が自らの支配を軸とする「チュチェ思想」という神学体系をまるごと1つ作り上げた。この風変わりな神話を暗記しなければ、この国では生きていられない。なぜなら、国家の公式な教義に異議を唱えたら、死刑判決か強制労働収容所への片道切符につながる可能性が高いからだ。

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