「カジノ解禁」は、地方に何をもたらすのか 観光で「稼げる国」になるための寛容さが必要

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法案に詳細が盛り込まれていない理由は、今国会に議員立法として提出された「IR推進法案」が、カジノを含むIRの実現という政策目標達成に向けたスケジュールと、基本的な枠組みだけを示す「プログラム法案」であるためです。

賭博であるカジノの解禁は、国民および社会に大きな影響を与えます。したがって、本来であれば、1本の法律案ですべてを規定して、それを国会で徹底審議するのが望ましいでしょう。ただ、現状において違法とされている賭博を解禁するという法案を、内閣(政府の官僚)が進んで立案するというのは、事柄の性質上、難しさもあります。

そこで、議員立法によって「解禁する」という方向性自体を打ち出した後に、カジノ解禁のための具体的手段、すなわち、どのような制度設計でカジノを解禁するのかといった具体的な内容を盛り込んだ「IR実施法」(以下「実施法」)の立案が、関係省庁を集結させた内閣の推進本部によって、進められていく流れになるのです。

カジノ解禁については、関係する既存法令や省庁が多数にわたるため、そのように内閣の推進本部で、各省庁の叡智を結集し、さまざまな論点を調整したうえで実施法案を作成したほうが、より緻密な法制になるという配慮もあります。

観光で「稼ぐ」という観点が軽視されてきた

IR推進法案は昨年、いったん廃案になりながらも、今年、再度提出され、延長国会で可決が目指されています。この背景には、推進勢力の利権的な思惑もあるのでしょうが、同時に、政府が進める成長戦略に資する部分があることも事実です。

IR推進の目的は、法案に明記されているとおり、「観光及び地域経済の振興と財政改善」です。この政策目標自体は、誰も否定しないと思いますが、この政策目標は、「言うは易く行うは難し」の典型です。

たとえば、自然の豊かな美しい地域に人が訪れても、その人たちが、自然を楽しむだけで、おカネを使わずに通り過ぎてしまう現実もあるでしょう。これまでの観光政策では、エコツーリズムなど、文化的・社会的意義が強調される一方で、滞在型観光で「稼ぐ」という経済的・実利的観点は軽視されてきました。

しかし、観光客にたくさんおカネを使ってもらって初めて、地域経済の活性化につながります。逼迫(ひっぱく)する国と地方の財政を改善するためには、きれいごとだけでは済まさずに、いかにおカネを使ってもらうのか、現実から目を背けずに「政策」として検討する必要があると考えています。

今後は、推進派内部での先行研究を、よりオープンな形で一般の国民にも明らかにして、議論を尽くす必要があります。

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