日本で「職場での傷つき」が軽視されている大問題 できる人は「機嫌がいい」「怒らない」だろうけど

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――あのときのあなたの傷つきや悲しみや怒りは、職場でろくに口外されずに、どうなっているんでしょうか?

シャボン玉のごとく、きれいさっぱり消えたのでしょうか。いつまでも気にしているほうが悪くて、さっさと「メンタルを強く」すればすむのでしょうか。もしくは「怒らない技術」「いつもご機嫌でいる作法」があれば、平静を装えるのか。

はたまた、「職場での傷つき」は、"自分が仕事できないやつだから仕方ないんだ“”期待に応えられない自分が悪いんだ、能力が低いからダメなんだ"などと納得させてしかるべきなのでしょうか。その答えは総じてNOだと考えます。

「能力評価」が「傷つき」を見えなくしている?

「あの人やる気ないよね」
 「うちの部署は問題社員ばかり」
 「残念な上司のもとで成長しそうもない」
 「社長にリーダーシップがないから、うちの会社はぱっとしないんだよ」

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聞いたこと、もしかしたら言ったことのある、お馴染みの発言ではないでしょうか。上司から部下へのみならず、部下から上司のパターンも含む、働く個人に対する立場からの言いぐさ。

その矛先は、相手の「やる気」や態度、「リーダーシップ」をはじめとする「能力」への「評価」に向けられていることが多いわけですが、これらの一見それっぽく聞こえる「能力評価」こそが、「職場で傷ついた」と言わせてくれない労働・職業世界をつくっているのではないか?

そんな仮説を解きほぐしていこうとしているのです。逆に言えば、

・言われたことしかやらない職場
 ・多様性はかけ声ばかりで、実は排他的な職場
 ・上意下達で創造性や革新性が立ち現れない職場

などの、疲れた職場という問題は、社員個人の「不出来」「能力・資質」「メンタルタフネス」の問題にされがちです。そして、組織は個人の「選抜」「育成」に躍起になっていますが、足元の個人の「傷つき」をなおざりにしたまま、功を奏すことはあるのでしょうか。

このような問いを入口に、「職場の傷つき」が、公言されずともどのような場面で実は存在しているか? それなのに、本人が申し出ることはなぜないのか? の背景に迫ることから「組織開発」をはじめていきます。

勅使川原 真衣 組織開発コンサルタント

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てしがわらまい / Mai Teshigawara

1982年横浜生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。ボストンコンサルティンググループやヘイグループなどのコンサルティングファーム勤務を経て、独立。教育社会学と組織開発の視点から、能力主義や自己責任社会を再考している。2020年より乳がん闘病中。著書『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)は2023年紀伊國屋じんぶん大賞第8位に。既著に『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)、最新刊は『職場で傷つく』(大和書房)。だいわlog.「組織のほぐし屋」、朝日新聞デジタルRe:Ron「よりよい社会と言うならば」、論壇誌「Voice」(PHP)などで連載中。

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