「先生の白い嘘」監督批判に感じるモヤモヤの正体 監督と作品へのバッシングは本質を見誤っている

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公開前後から批判を浴びた本作だが、事態は依然として収束していない。事実関係が明らかにされていない部分も多く、筆者自身も、モヤモヤした気持ちをいまだ拭えないままでいる。

企業のリスク広報においては、たとえ自社に都合の悪い情報であっても、あえて公表するという選択を取ったほうが良いことが多い。疑心暗鬼を生んだり、別の所から情報がリークしたりすると、事態が悪化してしまうからだ。

映画の場合は、配給や出資に企業が関わっても、制作チームのメンバーはひとつの会社組織の構成員ではないため、事実関係を検証することも、企業と同様の意思決定をすることも難しい。

一方で、エンドロールからもわかる通り、映画制作には多くの人が関わっている。トラブルが顕在化して上映中止になったり、興行収入に影響を与えたりすると、ダメージを被る人も多い。問題が起きていても、一個人が声を上げることはなかなか難しい。

今回話題になっているインティマシー・コーディネーターとは、性的表現を伴う撮影の際、制作者と出演俳優との間に立って身体的、精神的な調整を行う専門家のことだ。女優の要望があったのに、監督が却下したというのは、たしかに問題であったように思う。本作が性暴力をテーマにする映画だけに、なおさらだ。

撮影の過程で問題が生じていても、監督と俳優の力関係は人間関係から意思表示がしづらいことはもちろん、各所に与える影響を考えると、問題を表沙汰にすることは難しい。

対応が追い付いていない日本の映画界

2017年にアメリカ映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン氏の過去の性暴力、性的虐待が発覚し、性被害を告発する「#MeToo」運動が活発化した。

日本においては、2022年に映画監督の榊英雄氏、および俳優の木下ほうか氏による複数の女優に対する性行為強要の事実が明らかになった。同年、映画監督の園子温氏も女優に対する性加害の報道がなされた。

榊英雄氏の性加害によって同監督の映画『蜜月』は公開中止になり、主演の佐津川愛美さんをはじめ、多くの人が損失を受けた。今年に入っても、映画『1%er』の主演俳優が園子温氏の性加害に加担した可能性があるという報道により、作品が上映中止に追い込まれており、作品関係者や上映館は損失をこうむることになった。

『先生の白い嘘』については、作品そのものに大きな瑕疵はないと思えた。主演の奈緒さんはもちろん、共演の三吉彩花さん、風間俊介さん、猪狩蒼弥さんはじめ、出演俳優の方々は、難しい役柄を誠実に演じていたように思う。

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