元請けからすれば、二次請け、三次請けという形で業務を回せば、結果的に安く上がる、という考え方が根底にあるのかもしれません。しかし、それが回りまわって結果、IT人材が不足する要因となり、自分たちの首を絞めているのです。
また、日本の中小企業や零細企業では、技術力の低下が起こっています。それは受託の割合が減少していることに如実に表れています。
ここでいう「受託」とは、開発品の品質に責任を負う開発形態ですが、最近のIT関連の中小企業は、社内で完成品を請け負うことが減りました。
逆に、SES(システムエンジニアリングサービス)として、自社のエンジニアを大手クライアントに派遣し、月額で報酬を得る形が増えています。
受託開発では、自主的に開発管理し、品質責任を負う必要があります。その一方でSESでは、発注した会社からの指示があり、いわば派遣社員のような形態で働くことになりますが、企業が開発責任を負わなくて済むSESのほうがリスクが少ないと考えられているのです。
たしかに開発責任がないというのは利点ではありますが、このような体制のもとでは、エンジニアがプロジェクトの進め方やプロダクト開発のノウハウ、知識を深める必要はありません。
その結果、エンジニアの技術力が低下するわけです。
安い労働力を外部から得ようとする
このように、日本の多くの中小企業はIT企業というよりも人材派遣に近い形になっているのですが、大手企業もコアな人材は抱えつつ、安い労働力を外部から得ようとするのが一般的です。
海外では、日本のような多重下請け構造は見られません。この多重下請け構造は、江戸時代の大名の関係性のようです。元請け会社が親藩にあたり、二次請けが譜代大名、三次請けが外様大名といったところでしょうか。これも日本的な文化のひとつなのかもしれません。
多重下請け構造の下位の企業は、思考停止状態に陥り、今までやっていたことをただ続けているだけ、という場合が多いようです。高齢化が深刻で、50代や60代の従業員が大半という企業も少なくありません。
そのような企業は新しいものを取り入れる意欲に乏しく、現状維持を選ぶ傾向にありますが、DXやIT化が進む現代においては現状維持という姿勢で安泰な状態をキープできるのか、疑問が残ります。
実際に私が日本のIT企業の方と話していると、事態の深刻さを痛感します。
ほとんどの方は「優秀なエンジニアが採用できない」と嘆いておられますが、特によく耳にするのは「まだ学習したばかりで、ほとんどプロジェクト未経験の人しか紹介されない」、あるいは「経験者でも60歳以上の人しか紹介されない」という話です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら