「物価が上がらなければいいのに」と嘆く人たちへ 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【前編】

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小幡 私が懸念しているのは、今みんな値上げしていますが、非常に日本的で、個々の企業が自力で価格をつける度胸がないまま、要は「値上げバブル」なわけです。常に全体に流されていて、前と何も変わっていない。これではまた元に戻ると思うんですよ。

渡辺 実は、賃金もまったく同じで、横並びで同調し合いながら上げている。

特に賃金については、「上げられる企業と上げられない企業が出てくるのはよくない」と言われるけれど、僕は払えるところは賃上げして、払えない企業は賃上げできないという「格差」が生じる状態がまさに目指すべきことだと思う。

企業に貢献できる人は賃金をもっともらえばいいし、そうじゃない人は賃金が上がらないというのは当然あるべきこと。皆が同じように上がるなんてことは起こらないですよ。生産性に応じた賃金というのが原則です。

物価が上がっているのに自分の賃金がそこまで上がらないかもしれないと思ったら、賃金を上げるために転職したりして頑張るのが競争というものです。人と競争したくない、だけど値上げも嫌というのでは、社会が回りません。

「現状維持で安心・平等」は壊したほうがいい

小幡 中国やアメリカでは、稼いでいる人が価格を気にせずにほしいものを買うという行動が消費市場を動かしているので、価格が上がりやすい。日本ではケチケチ行動の消費者がほとんどですから、価格は動きにくい。

渡辺 要は価格も賃金も、現状維持で安定させると安心で平等。そこにあまりにも重きを置きすぎていたわけですよね。みんな変えないんだから、自分も同じままで問題ない。僕はその状態は壊したほうがいいと思うし、ようやく壊れつつあるけれど、完全には壊れていないのも事実です。

小幡 日本は「みんな一緒」のマインドだから、その波が大きくなるとバブルになって、歪みが大きくなってしまう。1980年代後半の日本のバブルのようなバブルは、他に例がないそうです。

日本はバブルになりやすい国、ブームに流されやすい国なんです。値上げも賃上げも、今はブームになりすぎてやりすぎで、反動で消費者の節約志向がかえって強まり、今のブームが終わったら、以前よりも酷い価格が動かない経済になってしまうかもしれない。

渡辺 今は同調だろうがなんだろうが、価格が動いてくれればもうけもの。スーパーなどの販売価格をPOSデータでみても、これまで価格が動かない商品の割合が7割だったのが減ってきています。顕著に減ってきています。

価格も賃金も動かない状態からとにかく脱出する。そうなりつつあるから、しっかり固める時だと思います。【後編に続く

2人の考えの一致する点と違う点が次第に浮き彫りに(撮影:梅谷秀司)

(対談は2024年4月23日実施 構成:黒崎亜弓)

小幡 績 慶応義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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渡辺 努 東京大学大学院経済学研究科教授

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わたなべ・つとむ

専門はマクロ経済学(とくに物価と金融政策)。東京大学経済学部卒業、米ハーバード大学Ph.D.(経済学)。日本銀行、一橋大学教授を経て現職。2019年4月から東京大学大学院経済学研究科長。株式会社ナウキャスト創業者、技術顧問。

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