「物価が上がらなければいいのに」と嘆く人たちへ 物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【前編】

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小幡績(おばた せき)/慶応義塾大学大学院経営管理研究科教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。1967年生まれ。1992〜1999年大蔵省(現・財務省)。一橋大学経済研究所専任講師、慶応義塾大学大学院准教授などを経て、2023年から現職。著書に『すべての経済はバブルに通じる』など(撮影:梅谷秀司)

小幡 私は渡辺理論を勉強しているうちに、「ゼロ」が問題なんだと思うようになりました。

個々の企業は価格を上げると他社に客を取られるし、価格を下げても、ライバルも追随するので、どちらにも動けない。しかし、それは現状維持がゼロの場合とそれ以外では、現状維持への吸引力が大きく異なる。ゼロは吸い込むパワーがものすごすぎる。それが問題だと。そういうことでしょうか。

渡辺 「ゼロインフレが望ましい」という議論では、個々の価格がダイナミックに動いているけれど、全体としては非常に調和がとれている、一番うるわしい形を目指しています。

でも、日本では個々の価格が動かない結果として、平均としての物価も動かなかった。「ゼロ」は昨日150円だったモノが今日も150円という現状維持なので、皆がそこに落ちこみやすいわけです。

小幡 その状況を壊さなければいけないことはわかるんです。

渡辺 問題は、マクロの金融政策で壊れるかどうか、ですね。

異次元緩和より「変える力」が強かったもの

小幡 私と渡辺さんは、問題意識は一緒ですが、アプローチの仕方が違う。私は金融政策で変えるのは無理だから、個々人が頑張れと思っています。

ここ数年でわかったのは、「円安で輸入価格が上がったのは目に見えるから、値上げせざるをえないとわかれば皆、受け入れる」ということだと思うんですが、どうですか。

渡辺 異次元緩和は実は、それと似たことを政策的にやりたかったけれど、消費者や企業経営者に影響を与えるようなメッセージは出せませんでした。人間が行う政策よりも、パンデミックや戦争のほうが定常状態を変える力としては強いんだろうなと思います。

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