認識の齟齬を象徴する一例が、「バーター取引」だとして監視委が法令違反を認定した事案だ。監視委の発表によれば、三菱UFJ銀行は公募増資を検討している企業に対して、引き受け会社にグループの証券会社を加えるよう依頼。その対価として、金利の引き下げや弁護士費用の免除などを提示したという。
関係者によれば、公募増資を検討していたのは国内の上場REIT(不動産投資信託)だ。グループ会社同士の連携を掲げるMUFGは、収益性もグループ全体の「総合採算」を重視している。今回の例で言えば、「これだけ低い金利で融資に応じるのだから、せめてグループの証券を引き受け会社に入れて証券サイドの手数料を獲得したい」という思いがあったようだ。
他方で、REITは銀行ごとの融資シェアを子細に公表しているため、低い収益性であっても融資を断ればシェアの低下を通じて、取引に消極的という印象を市場に与えかねない。実際、依頼された期間10年融資は採算が合わなかったが、三菱UFJ銀行にとって応じない選択肢は事実上なかったようだ。
この一連の対応について、MUFGは「顧客軽視ではない」という立場を取ったようだ。だが、監視委はあくまで「銀行が引き受け業務に携わることは禁じられている」とし、法令違反だと認定した。
MUFGが待ち受ける「重い課題」
わだかまりを抱えつつも、MUFGは今後、現場に対して抑制的な運用を求めざるをえない。すでにメールのやり取りの監視や注意喚起の自動音声を通話時に流す施策を導入しているが、今後はAIによる通話のモニタリングなども検討し、7月中にも再発防止策を取りまとめる考えだ。
総会後半では、株主から「グループの中に銀行と証券が一緒にいて大丈夫か」と、連携そのものを憂う声も上がった。
折しも、内閣府が6月21日に公表した骨太の方針では、銀行と証券の情報共有を制限する「銀証ファイアウォール規制」の緩和が検討事項に盛り込まれた。政府の後押しを追い風に、他のメガバンクグループが銀証連携を強めて案件を奪いに来れば、MUFGの業績にボディーブローのごとく効いてくる。過去最高益に浮かれる余裕もなく、銀証連携と法令順守の両立という重い課題がついて回る。
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