「金持ちエリート政党」に変貌したアメリカ民主党 トランプ&サンダースが前面に出る絶望的状況

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

つまり、米政治は左右の分断の激化で混迷を深めているといわれるが、むしろ上下の分断が深刻なのである。階級闘争が起きつつあるのだが、それを左右の闘争に見せかけようとする言説がはびこるのは、一種の偽装とみるべきだろう。妊娠中絶や人種問題、歴史認識などを前面に出す「文化戦争」が偽装の道具に使われている。アイデンティティ政治である。

アメリカのグローバル企業の中核はIT・金融系だが、そこには世界中の高度な人材が集まるから多文化主義や多様な性的指向への寛容は自然であり必要だろうが、取り残された地域の人々には古くからの価値観を捨てる理由が分からない。前者が後者を見下せば激しい摩擦が起きよう。「文化戦争」も経済格差、階級問題として考えてみる必要がある。

現在は共和党がそうした階級闘争の中下層階級側の受け皿になっているのだ。大統領選の選挙資金でも、IT系や金融業界の大口献金は民主党バイデン側に集中し始めており、共和党トランプ側はむしろ庶民の小口献金を搔き集めて、それに対抗する構図になっている(Nick Reynolds, “Democrats Being Party of the Rich Could Cost Them 2024 Elections,” Newsweek, Jun. 14, 2023. )。

共和党と民主党のかつての支持層

かつては共和党こそが金持ちエリートの政党であった。製造業全盛の時代である。アイビーリーグと呼ばれる東部名門大学を出て大企業に勤め、経営陣に加わり、ロータリー・クラブに入る。あるいは地方の資産家で企業経営者として地元カントリークラブの常連である。

そうした人々は共和党支持者であり、その中から政治家となるものも出た。いわゆる「東部エスタブリッシュメント」や「メインストリート・リパブリカン」だ。1930〜1970年代には「ロックフェラー・リパブリカン」という呼び方も盛んに使われた。

東部エスタブリッシュメント主導の共和党は20世紀初頭に「改革の時代」を率いたセオドア・ルーズベルト大統領の伝統を引き継いでいた。だから大恐慌を受け1930年代に民主党が始めたニューディールの革新的政策にも理解を持っていた(Mary C. Brennan, Turning Right in the Sixties, The University of North Carolina Press, 1995, Chapter One.)。

他方の民主党は農業地帯である南部を大きな基盤とし奴隷制を許容する政党だったが、大恐慌を経て都市部の進歩的な労働者層、知識人、マイノリティ、そして伝統的な地盤である南部の保守層を抱える政党となって、フランクリン・ルーズベルト大統領の下で革新的な政治を推し進めた(ニューディール連合)。

この連合によるリベラル政治の優位は、1970年代まで続く。しかし、ジョン・F・ケネディ、リンドン・ジョンソン両大統領が失策を重ねたベトナム戦争への介入と敗北、戦争財政と福祉拡大が相まって生んだ政府債務、石油危機による物価高騰などが重なり、アメリカ経済は景気停滞とインフレが同時に襲うスタグフレーションでにっちもさっちもいかなくなる。

次ページレーガン大統領誕生で「ニューディール連合」が崩壊した
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事