就任時から決まっていた「名ばかり議長」の運命 カオスなアメリカ政治、再び「政府閉鎖」の危機

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議長不在で、中東の危機にアメリカ動けず(10月3日に解任されたマッカーシー氏、写真・Bloomberg)

2022年11月のアメリカ中間選挙で共和党が下院を奪回した後、15回の採決を経てようやく念願の下院議長に就任できたケビン・マッカーシー氏だが、わずか269日でアメリカ史上初めて解任された。マッカーシー氏は解任後初の記者会見で「私は歴史に名を刻んだだろう」と苦笑した。

下院議長解任劇は、今日、混迷を極めるアメリカ政治をあらわにしている。保守強硬派は下院共和党内でも少数派だ。議長解任を支持した下院共和党議員は8人と同党議員の4%にも満たない。

解任は、アメリカ経済にも今後、悪影響を及ぼすかもしれない。少数派は引き続きアメリカ政治を混乱させ、国民、そして世界からのアメリカへの信頼を失墜しかねない。

自ら引いた「議長解任」の引き金

マッカーシー氏の誤った判断は2023年初めにさかのぼる。当時、議長に就任したいがため、同氏は共和党保守強硬派に譲歩しすぎた。例えば、彼らの要望に応じ、議長解任動議は議員1人でも提出できるといった規則に変更した。マッカーシー氏は議長の権限を大幅に譲歩したことから、SINO(Speaker In Name Only:名ばかりの議長)となった。

つまり、就任時点から保守強硬派に振り回される運命にあった。

SINO=名ばかり議長であったマッカーシー氏だが、保守強硬派の思惑通りに動かないこともあり、保守強硬派の不満を高めた。

5月、マッカーシー氏は保守強硬派の納得を得ていない状況下で、債務上限を停止する法案を超党派で可決。アメリカ史上初のデフォルト(債務不履行)を回避した。

その後、保守強硬派の不満が頂点に達したのが、9月末に、政府閉鎖回避でマッカーシー氏が再び保守強硬派の意向に反し、民主党の協力を得て法案を可決した行為であった。

つまり、いずれも、マッカーシー氏はアメリカ経済が混乱するのを防ぎ、国を救った一方、保守強硬派との約束を破った。

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