よくこうしたケースで「AさんとBさんが同じ能力だったとして、性別だけが違っていたらどちらを管理職にするか」という議論がされることがありますが、私はこれって本当に意味のない議論だと思います。ふたりがこれまでの評価がまったく同じ、ということはあったとしても、能力がまったく同じなんてこと、あるわけないじゃないですか。
そして、もし、「女性管理職を後5人増やさないといけないから、候補者にゲタを履かせてでも管理職にしなさい」などという露骨な数合わせ目的の抜擢人事が行われる企業があるとすれば、その企業は早晩ダメになっていく、と私は確信しています。
つまり、良識あるきちんとした企業で、「女性だから抜擢」といったことが行われることはまれだということ。だからこそ、数値目標に遠く届かない企業が多いわけだし、懸命に候補者を育成しようとしているわけなのです。あなたの勤めている会社が、きちんとした企業なら、あなたが女性だから管理職に抜擢した、という判断はしていないと思いますよ。
私が尊敬してやまない、女性の元上司との会話で、この手の話題が出たことがあります。彼女は私に、「女性が実力以上のポジションに、女性だから…とゲタを履かされて抜擢された場合、誰が苦しいって本人がいちばん苦しいのよ」と言っていました。
「敵だと認識してしまうオトコたちも出てくるし、オンナ同士の人間関係もぎくしゃくしがちになる。努力して能力を発揮しても、素直に評価してもらえないし、失敗すれば、それみたことかと言われる。ゲタを履かせた罪悪感があるから、上層部もおかしなかばい方をする。彼女は何も悪くないのに、すごく仕事がしにくい状況が作られちゃうの。下手したら潰されちゃうわよ」という彼女の言葉に私はうなりました。
その当時、会社でちょうど昇進の人事を受けたばかりで、浮かれていた私は急に不安になり、「ちなみに、今の私もゲタはいているんですかね?」と言ってみたところ、「くだらないこと聞くんじゃないわよ!」としかられましたけど(笑)。そして、彼女がその後言った「ゲタ履かせて人事なんかしたら、頑張ってる本人にいちばん失礼じゃないの」というセリフ、私はすごく胸にしみました。
「女性だから抜擢された」でもいいじゃない!
ここまで、私は「女性だから抜擢」だなんていう人事は普通はないよ、とずっと答えてきたわけで、矛盾するように聞こえてしまうかもしれませんが、実は私は「万が一そうだったとしても、それはそれでいいじゃん」とも思います。
これまでの経験から言うと、人事、それも抜擢人事を内示すると、「どうして私が選ばれたんですか?」と、ほとんどの女性部下は聞いてくる。でも男性部下は「ありがとうございます。頑張ります」と言うことが多いんです。「どうしてボクなんですか?」と聞かれるのは納得いかない人事のとき。これって人事に説明を求める、根拠を求める女性のクセの表れだとも思います。
人事が決まっていくプロセスなんて、全部話せるわけがない。それなのに聞きたがるのは、本人が自分に強い自信を持てないからです。上司に「私にその仕事ができるということを、説明してください」と自信の拠り所を提供してほしいということなんだろうと、私は理解していました。「女性だから数字合わせで抜擢されたのかしら? もし私が男性だったらこの人事はなかったのかしら?」なんていう、ネガティブな「たられば」の理由を数えてみたって、自信は湧いてくるどころか、もともとあった自信さえ、しぼんでしまうことになるかもしれないんです。
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