ネズミ増加に悩む繁華街で「協働」生んだ舞台裏 東京都千代田区 行政と住民・企業が連携

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関係者がこのルールを守ってごみを排出すれば、ドブネズミの被害減少が期待できる。これは、まさに「ごみを通じた地域自治の一形態」であり、関係者が当事者意識を持ってルールを守っていけば、自ずと「清潔で綺麗な街」となる仕組みが住民の側から構築された。

なお、2024年1月に千代田区の公民協働推進制度に基づきTCRと協定が結ばれた。TCRが開発した、ネズミが嫌うハーブの香料を添加した特殊なごみ袋が提供され、蓋つきの容器を設置できない場所でのごみ排出に対応していく提案がなされた。現在その実証実験が進められている。

「協働による繁華街の美化」の課題

新宿二丁目のケースと同様に鍛冶町二丁目でも住民、行政、業者が持てる力を出し合って地域課題を解決していく形が構築されている。

このような体制が地域に存在するだけでも協働のモデルケースだといえるが、実質的にこの体制が機能するかは、生ごみを排出する事業者の「廃棄物収集業者の選定」に大きく依存する。

飲食のチェーン店では、本部が一括して安価な廃棄物収集業者にごみ収集を依頼している場合がある。そこでは住民が策定したルールを厳密に守れない業者と契約を結んでいることもある。

また、千代田区の有料の事業ごみ収集に頼っている飲食店に対して、同額で日曜日の収集も可能となるTCRの収集への変更を依頼しても、WEBで簡単に契約できるとはいえ、業者の切り替えに難色を示す飲食店もある。

さらには、町会や商店会が飲食店に対し熱心にTCRの収集への変更を依頼すると、「バックマージンをもらっているのではないか」と根拠のない噂を流布される懸念もある。街の関係者全員の美化への意識が高まるのはまだ先のようだ。

街を綺麗にするには体制を整えれば実現すると考えるかもしれないが、実際にその仕組みの実効性を高めていくのは、そこにいる関係者が「自分ごと」として受け止めるか否かにかかっている。

街の一員として思いを共有し、多少の手間でも協力していくことで、ようやく地域で構築した仕組みが機能し、街の美化が推進される。街の清潔さは、そこにいる人たちの参加意識を映し出した、そのものである。

【画像】ドブネズミの相談が増加している千代田区の繁華街で、行政や住民が連携してネズミ対策を実施している様子(5枚)
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藤井 誠一郎 立教大学コミュニティ福祉学部准教授

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ふじい せいいちろう / Seiichiro Fujii

1970年生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士後期課程修了。博士(政策科学)。同志社大学総合政策科学研究科嘱託講師、大東文化大学法学部准教授などを経て現職。専門は地方自治、行政学、行政苦情救済。

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