「りんご」の鉄瓶が伝統工芸の世界にもたらす新風 大学やスタートアップと連携しAI活用も模索
南部鉄器とは無縁の20代を送っていたが、東日本大震災をきっかけに、「自分にしかできないことをしたい」と思うように。それまでのキャリアや生い立ちの棚卸しをしたことで、父がその道を追求してきた南部鉄器や、祖父が継いできた郷土芸能などへの思いを新たにしたという。
「自分の中には地域の伝統文化が根づいていることに気がつきました。南部鉄器の技術を身に付け、そこに会社員として培った営業のスキルがあれば、自分にしかできない形で南部鉄器の世界で新しいことを起こせると思ったんです」
鉄器づくり100の工程を検証
「悔しさ」も原動力だったと田山さんは振り返る。
「父は高い技術のある職人として評価されていましたが、それでも決して経済的に裕福だったわけではありません。南部鉄器がもっと稼げる産業になるためには、自分がチャレンジして南部鉄器業界を変えてやる、そう思っていました。当時は『南部鉄器業界をぶっ壊す』なんて息巻いていましたね」
2012年にUターンし、定年退職し独立していた和康さんに師事した。当初から課題として念頭にあったのは、深刻化する職人不足だ。長引く不況で職人の成り手は減少。海外で南部鉄器が注目され、輸出は伸び始めていたのに人手が足りず、生産が追い付かない事態になっていた。
南部鉄器の世界は、ひとつの鉄瓶を仕上げるまでに全部で約100の工程があり、「10年修行してやっと一人前」と言われてきた。
和康さんが全工程に携わるまで30年かかったと聞いていた田山さんは、まずは自身が一人前の職人になることを目指しつつ、制作に必要な全工程を把握したうえで、育成にかかる時間やそれ以外のコスト、ボトルネックになりがちな工程などを検証することにした。
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