薬物依存症者の「逮捕実名報道」家族が抱く違和感 過剰な報道が依存症者の社会復帰を阻むと懸念

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薬物依存者への対応として、閉鎖病棟や矯正施設で一定期間、当事者を薬物から引き離すことも行われている。しかし物理的に薬物をシャットアウトするだけでは、回復して社会復帰することはできず、自らの意思で「やめ続ける」ことが必要だ。ダルクは本人の意思を尊重しつつスタッフが生活に必要なサポートを行い、回復に必要なプログラムも提供できる非常に重要な施設だと、横川理事長は強調する。

一度薬物から離れた人は「使う前」と同じ状態に戻るのではなく、「使わずにいられた」日を一日一日積み重ねて生きていかなければならない。それは社会の人が思う以上につらいことであり、ダルクのような仲間のいる場で、ともにやめ続けることが不可欠なのだという。

逮捕された3人は弁護士を通じて、木津川ダルクの加藤代表に「罪を償ったらダルクへ戻り、やり直したい」と伝えている。横川理事長の長男もダルクに入寮し、15年以上薬物から離れて生きてきたが、それでもさまざまな事情で施設から離れると、励まし合える仲間がいなくなり再使用のリスクに脅かされるそうだ。

「薬物依存者や家族に『卒業』はないと、私自身実感しています。だからこそダルクが窮地に陥ると、当事者や家族も同じように厳しい立場に立たされてしまうのです」

「依存症者は回復できない」との誤解

立正大学の丸山泰弘教授(刑事政策・犯罪学)は「ダルクは、出院・出所者など罪を償ったにもかかわらず行き場のない薬物依存者を受け入れ回復を支援しており、警察や司法当局にとっても重要な役割を果たしています」と語る。

警察側が、入寮者の逮捕だけがクローズアップされるような形で情報を開示すると「薬物を一度使うと、回復施設に入っても立ち直れない」という誤った印象が世間に広まりかねない。その結果、依存症者が人生の落後者であるかのようなスティグマが強化されてしまうのではないか、という危機感を示した。

「報道機関はしばしば、報道の公平性を担保するには賛成と反対双方の意見を併記することが大事だと主張します。ならば今回も、逮捕を報じるならダルクの果たす役割や施設のサポートで回復している人がいることも、併せて書くべきでした」

また依存の根本には、過去の虐待被害やトラウマ、貧困や差別などが潜んでいることも多く、国際的にはこうした根本原因に対して、福祉や医療、教育の面からアプローチすることの重要性も認識され始めているという。

日本でも当事者の「生きづらさ」に対する支援が可能になるよう、行政やNPOなどによるサポートや予防教育といった社会的なインフラをさらに充実させる必要があるとも、丸山教授は指摘した。

「欧米では、治療や生活支援を通じて薬物の問題使用を減らす『ハームリダクション』という手法も広まりつつあります。日本も問題使用を効率的に減らすためには何が必要か、という観点から、国際基準に沿った方法で薬物依存症者に向き合う時期が来ていると思います」
 

有馬 知子 フリージャーナリスト

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ありま ともこ / Tomoko Arima

共同通信社を経て2018年独立。取材テーマはひきこもり、児童虐待、性暴力被害や多様な働き方など。

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