薬物依存症者の「逮捕実名報道」家族が抱く違和感 過剰な報道が依存症者の社会復帰を阻むと懸念
「朝日新聞からは前日にダルクの別の施設に問い合わせもあり、警察のリークがあったと推測されます。私たちは行政の依頼で、引き受け手のない出院者・出所者も受け入れています。なぜ出頭を拒み、大きく報道されるやり方をあえてしたのか、理解に苦しみます」
加藤代表は一連の報道によって、全国にあるダルクの施設が薬物使用を放置しているかのような誤ったイメージが拡散されてしまうことを懸念する。さらに「薬物依存に苦しむ人が『ダルクを頼ると、有無を言わさず警察に通報されてしまうのではないか』と考え、相談を思いとどまりかねない」とも指摘した。
また大手メディアのうち毎日新聞、産経新聞などが逮捕者を実名報道する一方、朝日新聞、読売新聞などは匿名で報じ、判断が分かれた。
罪を犯した以上、報道されることも含めて自分のしたことの責任を引き受けるべきだ、という意見もある。しかし、他人へ危害を加えたり違法薬物を取引したりせず、薬物使用のみで逮捕された依存症者については「制裁は裁判所の判断する量刑によって行われます。実名を報じ、社会的な制裁まで受ける必要があるのでしょうか」と加藤代表は疑問を投げかける。
名前は「デジタルタトゥー」として半永久的にネット上に残る。実名を報じられた人の中には20代の若者もいるが、罪を償った後も就職や結婚が困難になったり、物件を借りるときや住宅ローンを組むときに支障が生じたりと、さまざまなハンディを背負うことになる。
「前科のある人の再起が難しい日本社会において、薬物使用者を一律に実名報道するのは、本人の更生と社会復帰を妨げるだけです。社会から排除されるつらさから逃れるため、再使用に走るリスクも高まります」と、加藤代表は強調した。
ダルクの窮地は本人や家族にも打撃
NPO法人「全国薬物依存症者家族会連合会(やっかれん)」や依存症当事者・家族の支援を担うNPO法人ASK、ギャンブル依存症問題を考える会などは5月12日、連名で声明を発表。「依存症者がダルクで回復の道を歩んでいることで、家族がどれだけ救われるかわかってほしい」などと訴えた。
ダルクは全国に80カ所以上存在するが、中には地域住民の反対運動などが起きている施設もある。声明は、地域の反発が強まることなどへの懸念を示し、実名報道に関しても「依存症者の将来をつぶすだけで何の役にも立ちません」と非難した。
やっかれんの横川江美子理事長は、回復施設や薬物依存症者に対する社会のスティグマ(差別や偏見)が強化されてしまうのではないか、と話す。
「人間は知らないもの、わからないものに恐怖を感じます。逮捕の事実だけが報じられることで、薬物使用者はこれまで以上に得体のしれない存在として警戒され、社会の中で回復するのが難しくなってしまいかねません」
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