伝説のバンドに東大生の私が学んだ「生きる価値」 肩書を取られたら何も残らないちっぽけさを痛感

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幸いなことに血は止まった。大きな障害も残らなかった。私はたまたま、本当にたまたま、生かされたのだった。

思えばいつもそうだった。

借金してでも、子どもに学びのチャンスを与える家に、私は生まれた。学業継続の危機にはお金を貸してくれる恩人があらわれた。生と死の際(きわ)にありながらも、かろうじて助かった。どれもこれも私にはコントロールしようのない<運>だった。

こんな詩がある。

いまや太陽は燦々と昇ろうとしている。
まるで昨夜の不幸などなかったかのように!
その不幸は私だけに起こったのだ!
太陽はあまねく世を照らす!
自分の中に闇を包み込んではならない、
それは永遠の光の中に沈められねばならないのだ!
リュッケルト「亡き子をしのぶ歌」より

そう、未来はだれにも予見できない。突然の悲しみにおそわれるかもしれない一方で、明日になれば、想像もできないような幸運が私たちの訪れを待っているかもしれない。

だから思う。私たちは、希望を捨ててはならない、生きる意志を持たなければならない、と。

肩書を失う恐怖を感じることができた「幸運」

だが、自分語りだ、と怒られることを覚悟のうえで、もう一歩だけ話を進めさせてほしい。

明日の幸運を信じ、痛みに耐えぬけるほど、人間は強くない。私は、幸運の訪れを確信できず、頼れるだれかという<依存先>を見つけられずに苦しんでいた。ひとりぼっちだったから、私は絶望し、死と向きあった。

でも、そんな弱くて、無力な私だったが、死を選ぶ前にできることが1つだけあった。それは、苦しみの意味を考え、自分の<態度>を決めることだ。

私は「東大生」という肩書を失うのが怖かった。でも、その恐怖は、肩書を持っている人間の特権ではないか、と思った。母と叔母が、体を張り、借金取りと戦いながら学びの機会を与えてくれたからこそ、私は"幸運にも"恐怖を感じることができたのだ、と。

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