海老澤氏によると、スターハウスの利点はそれだけではない。
団地に多い板状の住棟とは異なり、スターハウスは塔のような形をしている。そのため、狭い土地や傾斜地に建てることができ、土地を有効に活用できるのだ。
また、景観面に変化を与える側面もある。「単調な団地風景のポイントとなるよう、あえて目立つ位置に配置した例や、板状住棟を建てれば効率よく、多くの人に住宅供給ができるにもかかわらず、スターハウスを建てた例もありました。当時の建築家たちの景観に対する意欲的な姿勢がうかがえます」
土地を効率的に活用することも、景観を意識して配置することも、スターハウスだから実現できることなのだ。
ユニークな形のスターハウス、ちなみに「家賃」は高かったのだろうか。
「スターハウスは基本的に公的な住宅として建てられたもので、家賃もほかの住宅と同じように設定されていたと思われます」と海老澤氏。今は「スターハウスだから住みたい」と憧れて住まいを求める人がいるが、当時はあくまで集合住宅のひとつ。家賃で差をつけていたわけではないようだ。
ちなみに、赤羽台団地(日本住宅公団)のスターハウス竣工時の入居者公募の資料(2003年北区飛鳥山博物館『団地ライフ─「桐ヶ丘」「赤羽台」団地の住まいと住まい方─』展の図録より)によると、1962年公募当時、住宅専用面積46.99〜48.30㎡のスターハウスの家賃(概算)は9600円〜1万400円とある。
消費者物価指数を考慮すると、1962年の1万円は、2024年の約5.4万円に相当する計算になる。 5万円台の家賃と聞けば、スターハウスもほかの住宅と同じく、あくまで住まいの選択肢の1つだったことが想像できる。
建物の内部には三角形の階段室も
スターハウスの形の魅力は外観だけではない。建物内部にある三角形の階段室も見逃せない。
福島県福島市にある県営野田町団地にも、市浦健が設計した最初のスターハウスと同じ型の住棟が残っている。海老澤氏はこのスターハウスを訪れた際、階段室の雰囲気に驚いたと振り返る。
「正三角形の螺旋階段を見上げていると、ほかの集合住宅にはない不思議な感覚になりました。薄暗い階段室に天井から光が落ちてくる光景は、幻想的で神秘的でした」
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