絶頂期からどん底へと一気に叩き落とされた中関白家。この失脚劇が周囲に与えたインパクトは大きなもので、藤原実資の『小右記』でもその顛末がつづられている。
枕草子では定子の悲劇に触れていない
だが、清少納言は『枕草子』で、定子が巻き込まれた悲劇について一切、触れていない。ひたすら明るく楽しかった頃の宮中を描きながら、思わず吹き出してしまいそうな、こんな毒舌も織り交ぜている。
「坊主はイケメンじゃないと説法を聞く気にもなれない」
「色黒で不美人な女と、汚らしい髭もじゃで、ガリガリにやせた男が、夏場に一緒に昼寝していた日には、目も当てられない」
何とかして、失意の底にいる定子を元気づけて、笑わせたかったのだろう。周囲からどんどん人が離れていく定子にとって、そんな清少納言がどれほどありがたかったことだろうか。
「かかる人こそは、世におはしましけれ」。一目見てその姿に感嘆した日からずっと、清少納言は定子を慕い続けたのである。
【参考文献】
山本利達校注『新潮日本古典集成〈新装版〉 紫式部日記 紫式部集』(新潮社)
倉本一宏編『現代語訳 小右記』(吉川弘文館)
今井源衛『紫式部』(吉川弘文館)
倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社現代新書)
関幸彦『藤原道長と紫式部 「貴族道」と「女房」の平安王朝』 (朝日新書)
繁田信一『殴り合う貴族たち』(柏書房)
真山知幸『偉人名言迷言事典』(笠間書院)
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