とにかく明るい「枕草子」清少納言が悲劇隠した訳 後世に名を残す名作、執筆し始めたきっかけ

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絶頂期からどん底へと一気に叩き落とされた中関白家。この失脚劇が周囲に与えたインパクトは大きなもので、藤原実資の『小右記』でもその顛末がつづられている。

枕草子では定子の悲劇に触れていない

だが、清少納言は『枕草子』で、定子が巻き込まれた悲劇について一切、触れていない。ひたすら明るく楽しかった頃の宮中を描きながら、思わず吹き出してしまいそうな、こんな毒舌も織り交ぜている。

「坊主はイケメンじゃないと説法を聞く気にもなれない」

「色黒で不美人な女と、汚らしい髭もじゃで、ガリガリにやせた男が、夏場に一緒に昼寝していた日には、目も当てられない」

何とかして、失意の底にいる定子を元気づけて、笑わせたかったのだろう。周囲からどんどん人が離れていく定子にとって、そんな清少納言がどれほどありがたかったことだろうか。

「かかる人こそは、世におはしましけれ」。一目見てその姿に感嘆した日からずっと、清少納言は定子を慕い続けたのである。

【参考文献】
山本利達校注『新潮日本古典集成〈新装版〉 紫式部日記 紫式部集』(新潮社)
倉本一宏編『現代語訳 小右記』(吉川弘文館)
今井源衛『紫式部』(吉川弘文館)
倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社現代新書)
関幸彦『藤原道長と紫式部 「貴族道」と「女房」の平安王朝』 (朝日新書)
繁田信一『殴り合う貴族たち』(柏書房)
真山知幸『偉人名言迷言事典』(笠間書院)

真山 知幸 著述家

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まやま ともゆき / Tomoyuki Mayama

1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年独立。偉人や歴史、名言などをテーマに執筆活動を行う。『ざんねんな偉人伝』シリーズ、『偉人名言迷言事典』など著作40冊以上。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義(現・グローバルキャリア講義)、宮崎大学公開講座などでの講師活動やメディア出演も行う。最新刊は 『偉人メシ伝』 『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』 『日本史の13人の怖いお母さん』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』(実務教育出版)。「東洋経済オンラインアワード2021」でニューウェーブ賞を受賞。

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