お家芸がお荷物に「液晶のシャープ」衰退の真因 国内でのテレビ向け液晶パネル生産ついに撤退

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もう1つの反省点は、経営者の「自信過剰バイアス」である。これは、自身の能力や知識を過大評価し、自信を持ち過ぎる傾向を指す。具体的に言えば、「液晶のシャープ」で成功し、今後も好調に推移すると予見する「予測的自信過剰」が生じる。その結果、身の丈以上の投資をしてしまう。大工場をつくり、シャープの優れた液晶技術をもってすれば敵なし、と保有する能力を過大評価する「行動的自信過剰」につながった。

「自信過剰バイアス」は、企業が競争優位を維持するためには、自社だけが持つ独自の能力や技術を活かすことが重要だとするコアコンピタンスと表裏一体である。シャープは液晶をコアコンピタンスにした。

創業者が晩年、色紙に書いていた「言葉」

もともと、電卓で使われた太陽電池とともにシャープの成長を支える事業だったが、液晶の存在感が高まりすぎ、コアコンピタンスにはなったものの、分かり易く言えば「専門バカ」に陥ってしまったのだ。そして、経営者の意識も健全な多角化へと向かわず、ビッグビジネスの液晶へ偏重してしまった。「いたずらに規模のみを追わず」の精神を忘れてしまったかのようだ。

苦労の末、シャープを創業し、その後も、何度も挫折を経験した早川徳次氏は、晩年、講演会場で色紙にサインを求められたとき、必ず、こう書いた。

「なにくそ」

2016年にシャープを買収した台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業(=フォックスコングループ)は、次世代通信や人工知能(AI)などの分野で協業し、シャープの再建を支援していくとしている。

2023年4月17日、幕張事業所(千葉市美浜区)で「111周年記念イベント」を開催し、創業家の早川家の人々を招待した。「早川徳次氏の創業精神を尊重している」と強調していた。シャープは自信過剰バイアスが解け、いたずらに規模のみを追わない「なにくそ」の精神で復活なるか。まだ、建設的な具体的戦略は見えてこない。

長田 貴仁 経営学者、経営評論家

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おさだ たかひと / Takahito Osada

経営学者(神戸大学博士)、ジャーナリスト、経営評論家、岡山商科大学大学客員教授。同志社大学卒業後、プレジデント社入社。早稲田大学大学院を経て神戸大学で博士(経営学)を取得。ニューヨーク駐在記者、ビジネス誌『プレジデント』副編集長・主任編集委員、神戸大学大学院経営学研究科准教授、岡山商科大学教授(経営学部長)、流通科学大学特任教授、事業構想大学院大学客員教授などを経て現職。日本大学大学院、明治学院大学大学院、多摩大学大学院などのMBAでも社会人を教えた。神戸大学MBA「加護野忠男論文賞」審査委員。

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