財政検証で判明、年金「100年安心」ではなかった 公約を実現するには今後も調整が必要だ

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毎月勤労統計調査によれば、実質賃金指数は、2004年の110から、2023年の97.1まで11.7%下落した。

だから、上で述べた2004年度財政再計算で、実質賃金上昇率を1.1%と設定したのは、きわめて大きな過大見積もりだったことになる。

今回の財政検証における実質賃金の見込みを、これまでのように高い値に設定すれば、ここで問題としていることが再び隠蔽されてしまう。したがって、現実的な値に設定することが、ぜひとも必要だ。

なお、実質賃金の上昇が年金収支に与える影響の正確な説明は、ややテクニカルなので、以下「補論」として説明することとする。

実質賃金上昇が保険財政に与える影響

初年度において、保険料の総額がA、年金支給総額がBであるとする。実質賃金上昇率が年率rであるとする。また、保険料支払者数は、各年齢に同数だけ分布しており、年金受給者は、65歳から85歳まで、各年齢に同数だけ分布しているとする(つまり、保険料支払者や年金受給者数は、時間的に不変であるとする)。初年度において、一人あたり年金額は、年齢によらず、B/20で同額であるとする。

この場合、20年後の保険料総額は、((1+r)^20)Aとなる。一方、初年度の年金支給総額は、新規裁定者だけが増えるので、((1+r)+19)・(B/20)となる。以降、第n年度の年金支給総額は、((1+r)・n +(20-n))・(B/20)となる。したがって、n=20の場合の年金支給総額は、(1+r)・B となる。

したがって、r=1%の場合、20年後の保険料総額は、1.22A、給付総額は1.02Bとなる。したがって、給付総額に対する保険料総額の比率は、初年度のA/Bから、((1+r)^19)・(A/B)となり、上昇する。

なお、実際には、保険料支払い者や年金受給者は、各年齢階層に同数づつ分布しているわけではないので、上記の単純モデルは修正する必要がある。

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野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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