さらに、異常な円安になってしまった最大の原因は、10年以上にわたって続いてきた日銀の異次元緩和にある。この副作用が、貿易赤字やアメリカの金利上昇によるドル高円安の影響を何倍にも増幅して、34年ぶりに1ドル=160円台をつけるまでの円安にしてしまった。
これは、今の「植田日銀」には直接の責任はない。しかし、過去の金融政策では、たかだかインフレ率を0.5%から2%に上げるために、約10年も無理矢理異次元緩和を続けた。
しかも、インフレ率は0.5%から1%弱で安定していたものを、この先2%になるのかならないのか、2%を超えたらさらに上がってしまうのか、確証もないまま、物価の不安定性、物価の予測を大幅に増加させ、経済を不安定にした。結果的にインフレ率は上がったが、それは金融政策と無関係に、世界的なサプライ(供給)サイドの制約要因(および円安)で上がっただけだった。
直接責任はなくても植田日銀はひずみの処理を行うべき
つまり、無駄でなんの効果もなかった異次元緩和の10年が、過度の円安という大きな副作用を残したのである。たとえ現在の日銀自身には責任はなくても、やはりこの壮大なひずみの処理を行うべきであるし、そもそも日銀は日本経済を健全な状態に保つ責任があるわけだから、その責任を果たすために、金融政策の理想像からの多少のひずみは甘受すべきではないのか。
もちろん、この10年の金融政策の失敗、異常な副作用の放置の真因は、アベノミクスにある。アベノミクスにおけるキャッチコピーである「デフレ脱却」「日本経済停滞のすべての原因はデフレである」という誤った(政治的には成功した)経済政策戦略を政治が採ったせいで、日本の経済政策はおかしくなってしまった。
本来、物価と為替と雇用と長期的視野と財政などのバランスを総合的に取って経済政策全体を運営すべきである日本国の司令塔が、すべてを物価のせいにし、物価さえ上がればすべて解決すると問題設定してしまった。そのため、物価の司令塔である日銀がインフレ率2%の達成に向けて、どんなに副作用が大きくなっても、その達成を最優先させたのは、専門家としての政策担当者としては、自然であったともいえる。しかし、今回の議論では、それは置いておくとしよう。
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