NHKが手掛けている「国際共同制作」の最新事情 知られていない日本固有の物語を世界に届ける

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違いをもう一つ挙げるなら、編集です。構成の仕方という点では、日本流の起承転結なのか、欧米の三部構成なのかという違いがあります。ナレーションがある場合、日本語は主語から始まって(文章の結論にあたる)述語が最後にくるので、カット尻の余韻を意識した編集のテンポが生まれます。英語のナレーションであれば、文章の主旨に該当する動詞が早めにくるので、おのずと編集の切れ味みたいなものが違ってくるんですね。実際に共同制作をやっていると、「そういうロジックで編集しているんだ」という気づきにも繋がり、制作者にとっては国際共同制作のメリットだとも思いますね。

これからの国際共同制作の潮流

最近ではDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)についても、国際共同制作を通じて学んでいます。特にアメリカやヨーロッパの放送局との場合、求められるDE&Iのスタンダードがあり、映像に映らない部分であっても配慮すべき点を把握していなければ、制作者として信頼を得られなくなってきています。ダイバーシティはもちろん、今はいかに環境負荷をかけずに制作していくかというのもテーマになってきました。

ダイバーシティと申し上げたのは、ジェンダーバランスやLGBTQに関する取り上げ方といったことだけでなく、やはり多様な声を多様な視点で伝えるという多元性が世界の潮流になっていると思うからです。例えば欧米の制作者がアジアにきて現地の物語を撮り、それを本国で放送するというようなことだけでなく、アジアの制作者の視点で自国の物語を語ってもらおうという機運が年々高まってきています。制作する側の多様性ですね。日本の物語を発信していくうえで一つのチャンスだと思っています。

それは、グローバル配信プラットフォームができたことによって、世界中の人たちが多様なコンテンツにアクセスできるようになり、自分の知らない文化や物語があることに気づき始めたことの表れでもあると思うんです。

2022年には、世界の公共メディア10局が連携をして国際共同制作に取り組む「Global Docs」というスキームが立ち上がっています。これは世界共通の課題に公共放送1局だけで取り組んでいくのはもったいない、みんなでアイデアと才能と制作資金を持ち寄って、世界中に届くものを一緒に作りましょうという、フランステレビジョンの呼びかけで始まったものです。NHKも参加していますが、今年から来年にかけて、1作目の国際共同制作番組が仕上がってくる予定です。

昨年末にNHK BSで放送が始まった「フロンティア」という番組があります。これは科学や宇宙、歴史、芸術などさまざまな分野を切り拓く“開拓者”たちへの取材を通して、今まで見たことのない、一歩先の新しい世界をお見せしますというコンセプトのドキュメンタリー枠なのですが、そのうち年間何本かを国際共同制作にしたいと考えています。共同制作を実現するためには企画段階から多くの作業と時間を要するのですが、その分、世界最高水準のコンテンツを生み出すことができます。「フロンティア」からどのような国際共同制作が誕生するのか、ぜひ楽しみにしていてください。(談)

インタビュー・構成/GALAC編集部

安田 慎 NHKメディア総局 展開センター 国際・大型企画グループ チーフ・プロデューサー

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やすだ しん / Shin Yasuda

1997年NHK入局。美術番組、教育番組、番組開発のディレクターを経て、国際共同制作のプロデューサーに。2018-22年、「ノーナレ」事務局を担当。2020年、「ジェイクとシャリース」(国際共同制作:NHK/NEP/ドキュメンタリージャパン)が国際エミー賞にノミネート。2021年から教育コンテンツの国際コンクール「日本賞」の事務局長を務める。

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