「最高のホテル」という好印象を下げる意外な原因 ホテルや映画のレーティングの知られざる罠

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たとえば痛みについて考えてみよう。それは楽しい経験とは言えないが、経験には違いない。私たちが痛みを感じられるのは、自分で痛いと信じるからなのだろうか。

それについては、25年前に起きた興味深い事例がある。

ある建設作業員が誤って落下したとき、なんとか両足で着地できる体勢にもっていったのだが、折あしく足をついた場所には板があり、そこから長さ15センチメートルの釘が上を向いて突き出していた。

釘が作業員の靴を突き通すと、彼は悲痛な叫び声をあげた。痛みがあまりにも激しかったために、医師はモルヒネの100倍強力な(そして危険な)鎮痛剤のフェンタニルを用いるしか方法がなかった。

ところが、苦心の末にようやく作業員の靴を脱がせてみると、釘はちょうど2本の指の間を通っていたことがわかり、それならば基本的に痛みは感じていないはずだった。これはあまりにも稀な事例だったので、イギリスの医学誌『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』に詳しく記載されている。

その反対もあり得る。単にすべてが順調に進んでいると思い込めば、本来感じるはずの痛みより、かなり小さい痛みですんでしまうことがある。

私たちの経験は個人的なものであるだけでなく、周囲の状況、自分の感じ方、信じているもの、見ているもの、その他の考えられる状況すべてによって影響を受ける

数字を用いて痛みを採点すると

こうしたことも、治療の対象になった患者が独自の主観的痛みを訴える理由のひとつだ。

主観的な痛みは、本人が言葉(言語スコアリング)または数字(数値スコアリング)を用いて表現することができ、そこにも興味深い一面がある。

痛みを分類する2つの方法を比較したいくつかの調査によると、どの調査でも共通した2つの結論が導かれたのだ。

第一に、2つのスコアリング方法の結果はあまり一致しない。たとえば、AさんはBさんより痛みに対して強い言葉を用いるのに対して、BさんはAさんより大きい数字で表現する。

第二に、言葉を用いて採点すると、数字を用いる場合よりばらつきが大きい。痛みを言葉で表現する場合は、最も弱い言葉から最も強い言葉までいくつもの異なるカテゴリーに広がるが、数字を用いた回答の大半は、指定できる段階の中央に近い数個の数字に集中してしまう

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