「リベラルアーツ」を軽視しすぎた日本社会の代償 「リーダーシップ」と「教養教育」の不可分な関係

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堀内:アメリカには、ハーバード大学のような総合大学とは別に、いわゆるリベラルアーツカレッジがありますね。私が懇意にしているグレン・フクシマさんがカリフォルニアのDeep Springs College、先日対談させていただいた斎藤幸平さんがコネチカットのWesleyan Universityといったリベラルアーツカレッジに進学していますが、アメリカには名門と言われるリベラルアーツカレッジがいくつもありますね。

また、アイビーリーグでは、新入生はとにかく寮に入らないといけない所が多い。寮があって、そこに寮監(りょうかん)がいて、チューターがいて、彼ら以外にもさまざまな人が寮にやって来て、毎晩議論をするといった活発な交流がおこなわれています。

山口:そうですね。まさにトーマス・マンの『魔の山』の世界ですよね。

堀内:その伝統はオックスフォード大学やケンブリッジ大学といったイギリスの大学から来ているのだと思いますが、オックスフォード大学では、39のカレッジ(学寮)があって、カレッジは必ず寮と一体になっています。そもそも大学に入学するためには、まずこうしたカレッジに入ることが必要になります。

日本とは異なる欧米エリートのキャリア形成

また、私がゴールドマン・サックスにいたときの経験をお話しすると、インベストメントバンカーには学歴の高い人が多いわけですが、実はアメリカの大学での専攻が歴史や哲学など、経済や経営はまったく勉強していませんという人が多くて驚いた記憶があります。

とにかく最初はリベラルアーツ的なものを学ぶ。そして、次のステージとして、金融で成功したいと思ったら、学部卒で数年働いてある程度の資金を貯めてから、ビジネススクールなどで学ぶ。そうして、20代の後半くらいで専門的・実務的な知識を身に付けたビジネスマンとして、その分野で階段を駆け上がっていく。キャリア形成はそんな感じになっていますね。

山口:まさに、ピーター・ティールなどが典型ですね。彼は大学の学部は哲学科で、その後、大学院はロースクールで学んでいます。スラック(Slack)の創業者のスチュワート・バターフィールドも哲学科の出身です。シリコンバレーのハイテク業界というと、「STEM」という印象がありますけれども、実はそうでもないんですね。

クリスチャン・マスビアウが『センスメイキング』という本で、若い時期の求職においては、STEMの学位は有利に働くかもしれないが、経営者の経歴を見てみると、STEMではなく人文科学系の学位を取っている人のほうが多いというデータがあると書いています。この話をするとSTEM系の人は猛烈にかみついてくるので怖いんですけれども(笑)。

堀内:金融の世界では、「イングランド銀行を潰した男」の異名を取るクオンタム・ファンドで大成功したジョージ・ソロスは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で哲学の学士と修士を取っています。ジョージ・ソロスと一緒にクオンタム・ファンドを設立したジム・ロジャーズもイエール大学で歴史、オックスフォード大学で哲学の学士を取っています。山口さんがおっしゃるように、日本では早い時期に専門を決めてしまう弊害があるのかもしれません。学生も何を勉強するのかをよく意識しないで大学を決めているので、大学で学ぶことの意義自体がかなり曖昧になってしまっているのだと思います。

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