堀内:少し話が変わりますが、大学の先生など日本の識者の多くは、リベラルアーツや教養が大切で、日本のエリートには深みがないと批評するのをよく耳にします。それは事実だと思いますが、では、どうすればいいのかというと、ほとんど具体的な方法論を持っていません。おそらく、大学の先生自身が実社会での経験がないために、大切だというべき論と実感が結びついていないのではないかと思います。
一方、山口さんはご自身の経験も踏まえたうえでそこに切り込んでいて、リベラルアーツや教養的な考え方を、どのようにビジネスの世界に組み入れて現場の仕事で使えるものにしていくかを実践されているように感じます。それは、ご自身で強く意識されている部分なのでしょうか。
山口:直接的な答えになるかわかりませんが、私はビジネススクールへは行かずにコンサルの世界に入ったので、経営学的な知識が欠損していたわけですね。逆に使えるものは何かと言えば自分が学んできた哲学や美学の知識だったので、コンサルとしてアドバイスをする際には、ギリシャ哲学の知識やシェイクスピア劇の有名なせりふなどを使い倒していくしかなかったのです。しかし、これが他のコンサルタントとは、まったく視点や切り口が異なるということで有利に働きました。
マネジメント層に不可欠な「教養教育」
堀内:まさにリベラルアーツに関する知識をビジネスに生かしてきたわけですね。
山口:そうだと思います。私は20年間外資系のコンサルティング会社に勤め、最後はパートナーまで務めました。ですので、日本のトップクラスの経営者たちと渡り合って、それなりのインパクトも出してきたという自負はあります。そうした自らの経験を踏まえて、歴史や哲学といったリベラルアーツの知識は、ビジネスの世界において強力な洞察を与えてくれるもので、同時に、正しい意思決定を行う際の助けになるものだと思っています。
現在、日本の企業の多くが「リーダーの育成」で試行錯誤している状況にあります。現場の仕事だけを一生懸命に務めた人が、リーダーや経営層になったときにその責を十分に果たせないという問題が頻発しているのです。
欧米の後追いをしている時代は明確なゴールが見えていましたので、本当の意味での意思決定は求められなかったと言えるのかもしれません。しかし、現代のように先の見えない時代には、大局的で正しい意思決定ができるリーダーの存在が不可欠です。企業の人事部がマネジメント研修などで教養やリベラルアーツを学ぶ機会を増やしているのですが、一朝一夕に解決できる問題ではありません。(後編につづく)
(構成・文:中島はるな)
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