「リベラルアーツ」を軽視しすぎた日本社会の代償 「リーダーシップ」と「教養教育」の不可分な関係

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堀内:キャリア形成の話をすると、山口さんは慶応を卒業されて電通に入社されましたが、その前の学歴が日本的ではないと言いますか、とてもユニークですよね。その辺りのお話をお聞かせいただけませんか。

山口:その辺りの話は実はあまり戦略的ではなくて、高校は慶応の付属だったのですが、当時から作曲を勉強していましたので藝大に行こうか迷っていました。

実は慶応の付属から慶応大学を卒業し、その後、藝大に入り直した人――作曲家の千住明さんですが――が遠い知り合いだったこともあってアドバイスを求めたところ、「作曲の勉強は、大学ではそんなに学べるものではないよ」と言われたのです。それで、慶応文学部の美学専攻に進みました。

就職という段になって、どの道に進むかとなったとき、父が興銀に務めていて、当時の興銀は割と身内に甘い会社で「興銀に来るか」と言われたのですが、金融の世界には興味が持てませんでした。それを父に伝えると、「大学時代は音楽を作ってばかりで協調性もないし、おまえみたいな変わり者は電通のような会社が向いているんじゃないか」と言われ、それがきっかけで電通を受けることにしました。

そのなかで、電通の人が「人間が夢中になるものは4つあって、電通はそのすべてがある会社だ」という話をしてくれました。4つというのは、1つ目は研究で、特に広告の世界は人間の感情に関する心理学の研究との接点が多いのだと。2つ目はビジネス、3つ目はアートですね。広告は芸術や創作、表現に関わる仕事だと。そして、4つ目がスポーツで、電通は人が夢中になるものすべてに接点のある会社だという話をしてくれて、ここで働くのは面白いのではと感じたのです。

また、自分自身、大学時代は表現に関わる研究をやってきて、心理学にも興味がありましたので、自分の興味のある領域と、社会の中で接面として接合できる面積が一番大きいのは広告の世界だと期待を膨らませて電通に入社を決めました。

営業局で実績を上げ外資系コンサルに転職

ところが、入社すると、君は新入社員研修の中で人当たりもいいし、しゃべらせると流暢に人と話ができるから、営業向きだと言われ営業局に配属されたのです。一方で、コミュニケーション下手の同期がクリエイティブ局に配属されて、つくづく人生ってわからないものだなと思いましたね(笑)。

ただ、自分には営業という仕事が合っていたのでしょう。結果も出て、営業の仕事が面白くなってのめり込んでいくようになりました。それで、さらに純度を高めたいという思いからボストンコンサルティンググループ(BCG)に転職したのです。ですので、自分のキャリアは、枝づたいに進んでいくうちに、かなり毛色の違うところに来てしまったという感じですね。

堀内:山口さんが営業向きと言われて、営業をやってみたら面白くなったというのは意外ですね。優秀なコンサルのイメージが強いので、電通でもクリエイティブ出身かと思っていました。

山口:意外かと思われるかもしれませんが、コンサルタントとして活躍している人には、実は哲学科の出身者が多いのです。コンサルの世界で化ける人には学部的な傾向があるという仮説があって、理学系では物理学で、人文科学系では哲学科だと。事実、世界的にBCGのオフィスを見てみると、ユニークな立ち位置をつくれている人はこのどちらかであることが多いのです。

例えば、私が入社したときのBCGの日本代表は御立尚資さんで、彼も京都大学文学部でカート・ヴォネガットの研究をしていましたから、まさにど真ん中の人文系で、その後、ハーバードに行っています。まさにピーター・ティールなんかと同じですよね。

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