王子HD、「薬用植物の王様」に注力する切実な事情 甘草の大規模栽培で「脱・製紙企業」目指す
多年生植物である甘草は、種を播いてから収穫するまでに通常は5~6年かかる。毎年毎年課題をクリアして育てていかないと収穫にはたどり着けない。栽培当初は、種を播いて苗になる割合である「得苗率」が3割ほどだったり、雑草に悩まされたりするなど、苦労の連続だったという。
それでも植林事業で培った苗木育成のノウハウをもとに改良を加えたり、肥料の栄養素やあげ方を工夫するなど試行錯誤を繰り返し、得苗率を9割以上に高めることに成功したという。
「得苗率が大幅に向上したことで、2017年から大規模栽培に踏み込むメドが立ちました」(佐藤氏)
2016年11月に王子HDは、「薬用植物『甘草』の国内短期栽培技術確立のお知らせ」というニュースリリースを発出している。そこには、通常は5~6年かかる栽培期間を約2年に短縮する技術を確立したことや、日本薬局方で定められた甘草の有効成分基準である「グリチルリチン酸含量2%以上」を達成できたことが盛り込まれている。
こうして同社は、試験栽培を終え、栽培面積を拡張することで大規模栽培技術の確立にステップアップする。その結果、2021年以降は年間トン単位での甘草の収穫に成功している。
「今後も毎年5~10トン以上の甘草を収穫できる体制が整っている」と、同研究所・取締役事業本部事業部長の八田嘉久氏は自信を見せる。
漢方薬の業界団体は歓迎ムードだが…
中国産甘草に依存している漢方薬メーカーは、国産甘草の大規模栽培の動きをどう受け止めているのか。
製薬会社など58社を会員に持つ日本漢方生薬製剤協会の生薬国内生産検討班・班長の小柳裕和氏は、「輸出規制などのリスクがある中国産の生薬に代わって国内産が確保できるのは願ってもないこと。甘草はとくに国内での栽培が難しく、王子HDの動きには注目している」と話す。
農林水産省も生薬の輸入量のうち7割が中国産に依存している現状を憂慮し、漢方生薬業界に対して国内産の栽培拡大を後押している。こうした動きの中で、王子HDの国産甘草の大規模栽培成功は「チャイナリスク」を排除する意味からも朗報であることは間違いない。
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