キリン、ファンケル買収に透ける「期待と不安」 経営トップ、ファンケル関係者も不在の異例

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キリンHDはファンケルと飲料の共同開発なども進めてきた(編集部撮影)

キリンホールディングス(HD)とファンケルの両社にとって重要な成長戦略のはずだが、温度差と不安を感じさせる船出となった。

6月14日、酒類大手のキリンHDは、健康食品や化粧品を手がけるファンケルを買収すると発表した。TOB(株式公開買い付け)を実施し、年内にも完全子会社化を目指す。

ファンケル株の買い付け価格は1株あたり2690円で、13日の終値から約43%のプレミアムとなる。期間は6月17日から7月29日まで。買収総額は約2200億円。ファンケルはTOBを経て上場廃止となる見通しだ。

2023年12月期のキリンHDのヘルスサイエンス事業の売上収益は1034億円、事業利益は125億円の赤字だ。ファンケルの買収を機に成長軌道に乗せていくことができるのか。

完全子会社化で海外サプリ拡大 

キリンHDがファンケルを買収する狙いは、ヘルスサイエンス(健康関連)事業の成長だ。2019年にキリンHDの磯崎功典会長CEO(当時社長)が立ち上げた事業で、同年に健康食品で高シェアのファンケルと資本・業務提携し約33%を出資した。将来的な国内酒類市場の縮小を踏まえ、新事業に重点的な投資を行っている最中だ。

会見に臨んだキリンHDの吉村透留・ヘルスサイエンス事業本部長(左)と、山﨑大護・経営企画部主幹。ファンケル側の出席者はいなかった(撮影:梅谷秀司)

キリンHDとファンケルはこの5年間、さまざまな協業を行ってきた。ファンケルの「カロリミット」ブランドを用いた飲料や、免疫機能の維持に役立つとうたうキリンHDの素材「プラズマ乳酸菌」を配合したサプリメントなどを共同開発。研究開発やマーケティングでの人事交流も進めてきた。

しかし約3割の出資比率では、法的・税務的な制約が障壁となっていた。「利益相反につながるリスクがあり、思い切った投資ができなかった」(ヘルスサイエンス事業本部長の吉村透留氏)。

資本業務提携した当初は事業利益で50億円程度の押し上げ効果があると見込んでいたが、実際の額はそれより低い水準にとどまった。

そこで昨年7月下旬にファンケル買収の検討を本格的に開始。今年2月下旬には完全子会社化に向けた提案をファンケルに行った。買収後のシナジーやTOBの買い付け価格についての議論を進め、5度の提案を経て同年6月14日に承諾された。

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