王子HD、「薬用植物の王様」に注力する切実な事情 甘草の大規模栽培で「脱・製紙企業」目指す

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同社が栽培した甘草は野生甘草と比べて、比較的短い年数で採取する。そのため、グリチルリチン酸の濃度は野生甘草より低いという特徴があった。ただその一方で、栽培甘草には野生甘草特有の癖やえぐみなどが少なく、食品の添加物としてなじみやすい。

甘草を医薬品以外の用途で活用するのであれば、日本薬局方で定めたグリチルリチン酸2%以上という基準は適用されない。生薬としての活用では弱点となっていたこの点も、食品用途での活用では逆に強みとなる可能性がある。

甘草を活用した食品としては、すでに王子HD産の栽培甘草が、製茶メーカーに採用され、「甘草茶」として発売されているという。

今年夏ごろに製造・販売予定の甘草エキス入りトマトジュース(写真は試供品:王子HD)

また、今年夏ごろには、王子薬用植物研究所がある北海道・下川町の農産物加工研究所と共同で開発した甘草エキス入りトマトジュースの製造・販売が、下川事業協同組合から予定されている。

さらに甘草は化粧品やシャンプー、歯磨き粉、シェービングフォームなど、ごく身近な製品にも広く使用されている。甘草抽出物の「グリチルリチン酸ジカリウム」には抗炎症作用があるからだ。

化粧品については、一部の化粧品メーカーとの共同開発が進んでおり、顧客に対してサンプル品の提供が始まっているという。

「今後、食品や化粧品などをテーマとした展示会やイベントに積極的に出展し、国内産の甘草の魅力をアピールしていきたい」(八田氏)

2030年度目標は1000億円

「脱・製紙企業」の実行部隊、イノベーション推進本部が立ち上がってから10年。現在の研究テーマは主に3つだ。

1つ目はセルロースナノファイバーをはじめとした「木質由来の新素材」。2つ目は「メディカル&ヘルスケア」。甘草など薬用植物の大規模栽培のほか、木質由来の医薬品の開発も行う。3つ目は「環境配慮型製品」。CO2排出量削減やプラスチック使用量低減などの環境問題の解決に向けた新製品開発を推進している。

王子HDでは、これら3テーマは研究段階の取り組みも多く、現在の売り上げ規模などは非公表だが、2030年には売上高1000億円の達成を目論む。

このうちセルロースナノファイバーなど木質由来の新素材の開発や、環境配慮型製品の開発は、ほかの製紙会社でも重要課題に挙げている。ただ、薬用植物の大規模栽培については、王子HDだけが取り組んでおり、今後大きく花を咲かせる可能性を秘めている。

高見 和也 東洋経済 記者

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たかみ かずや / Kazuya Takami

大阪府出身。週刊東洋経済編集部を経て現職。2019~20年「週刊東洋経済別冊 生保・損保特集号」編集長。

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