しかし、日本の製造業が競争力を失ったのは、中国の工業化などの大変化によってである。世界の製造業の基本構造が変わってしまったからだ。それは、補助金で救えるものではない。
日本の半導体産業が弱体化したのは、補助金が少なかったからではない。補助金漬けになったからだ。「補助して企業を助ければよい」という考えが基本にある限り、日本の半導体産業が復活することはないだろう。
必要なのは、「技術と投資と人材」
しかし、日本の半導体関連企業のすべてが輝きを失ったわけではない。最近の半導体ブームの中で脚光をあびているのが、半導体製造装置大手の東京エレクトロンだ。
同社の 時価総額は10年で16倍となり、トヨタ自動車についで、時価総額が日本で2番目に大きい企業となった。半導体の主要4分野の製造工程で世界1位、悪くても2位の装置を多数持つ。とりわけ最先端の半導体製造に不可欠の極端紫外線(EUV)向けは、シェア100%であり、世界をリードしている。
同社の河合利樹社長は、3月30日付の日本経済新聞のインタビュー記事「半導体投資、国に頼るな」の中で、「国は直近3年で半導体の関連予算を約4兆円確保した。国の支援がなければ世界屈指の競争力を取り戻すという目標は達成できないのか」との質問に対して、「半導体の重要性が再認識され、政府が支援をすることは業界の一員として非常にありがたい」としながらも、次のように述べている。
「企業は持続的な成長が求められていて、国の支援頼みにならないように戦略を考えていく必要がある」「企業が成長するには、利益が必要」。そして、「そのために、世界をリードする技術力、継続的に成長投資を図り、実現に必要な人材」の3点が重要だとしている。
立場上、「国の支援は不要」とは言えないだろうが、「成長のために利益が必要」との答えから、真意は明らかだ。
そして、「利益のために、技術と投資と人材が必要」という答えを見て、私は驚いてしまった。これは、経済成長理論の教科書に書いてあること、そのものではないか! そして、私が飽きもせずに繰り返し、実務家から「現実知らずの書生論」と馬鹿にされている答え、そのものではないか!
教科書どおりの答えを経営者から聞くことができたのは、1962年の特振法に対する石坂発言以来、62年ぶりのことだった。
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