何光年も離れた「恒星への旅」は実現可能なのか NASAの専門家が本気で考えた星間旅行の課題

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宇宙時代の幕開け直後の1960年代ごろの楽観的な見方とは裏腹に、この目標に向かう人類の進歩は多くの人の予想よりも常に遅かった。その理由は、努力が足りなかったことだけではない。乗り越えるべき課題がどれも非常に困難なのだ。

最も近い恒星、プロキシマ・ケンタウリは、約4.2光年離れている。つまり、秒速約30万キロメートルで進む光が4年以上かけてやっと辿り着く距離にある。だが、こんなふうに距離を説明されても、ほとんどの人はピンとこないだろう。

光の速度を実感できる人などそうはいない。この距離を頭のなかで捉えるのがどんなに難しいかわかっていただくために、もっと近い距離について、それだけ進むのがどれだけ大変かを想像してみよう。

1977年に打ち上げられたボイジャー宇宙船は、これまでに最も遠方まで到達した宇宙船だ。ボイジャー1号は、本書執筆の時点で、約156天文単位(au)の距離――地球と太陽の距離、約1億5000万キロメートルの156倍――にあるが、そこまで行くのに44年以上かかっている。

ボイジャーの位置に関する最新情報は、NASAのウェブサイト、https://voyager.jpl.nasa.gov/mission/status/を確認していただきたい。ボイジャーが正しい方向に進んでいたとしたら、プロキシマ・ケンタウリに辿り着くまでに約7万年かかると推定される。

本当に実施するのなら、星間旅行の期間は、年単位ではなく、千年単位で測れる長さでなければならないだろう。でないと実施可能とは言えまい。

難しい課題が山積みだが

宇宙船の推進手段の選定以外にも、星間旅行を巡る難しい課題はたくさんある。星間旅行をする宇宙船が、そんな途方もない距離を越えて通信するにはどうすればいいだろう? どの恒星からも遠く離れて星間空間を進んでいく宇宙船に、どうやって動力を供給すればいいのだろう?

さらに、所要時間を短くするために必要な速度で進むあいだに、星間ダストと衝突して船体が損傷するリスクも大きいはずだ。光速にかなり近い猛烈なスピードで進んでいるときには、小さなダストでも衝突すれば大惨事を引き起こしかねない。

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