外で遊ぶスマホゲーム「Ingress」、真の狙い グーグルがゲームで仕掛ける次の野望

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6月20日に仙台で開催されたイベント「Persepolis in Tohoku」には、約4000人のプレイヤーが国内外から集結した(C)Niantic Labs at Google
米グーグルのスマートフォンゲームが、リアルの世界で広がっている。グーグルの社内スタートアップのナイアンティック・ラボが開発した位置情報を使ったスマートフォンゲーム「Ingress」は、2013年10月にサービスを開始。現在は世界200カ国、ダウンロード数は1100万回以上を記録したヒットゲームとなっている。6月20日に仙台で開催されたイベントでは、2日間でのべ6800人のプレイヤーが国内外から集まった。3月に京都で開催されたイベントも5600人以上が集まるなど、盛り上がりを見せている。
Ingressとは、グーグルマップを基に開発された“陣取りゲーム”だ。プレイヤーは青と緑のいずかの陣営に所属し、世界中に存在する「ポータル」をめぐって陣取り争いを繰り広げる。プレイヤーがポータルにアクセスするには実際に足を運ぶ必要があるため、街中をさまよい歩きながらプレイするという風変わりな楽しみ方もIngressの特徴となっている。ポータルは観光名所や歴史的建造物、銅像などが中心だが、最近は商業施設も増え始めている。
この商業施設を対象にしたスポンサー広告が、Ingressの主な収益源となっている。パートナーはアクサ生命保険やローソンに続き、日本では6月からソフトバンクと三菱東京UFJ銀行が加わった。「ゲームやネットサービスと提携したのは初めて」(三菱東京UFJ銀行リテール企画部の中村俊允氏)、「自社のサービスや商品に興味を持ってもらい、ソフトバンクショップに立ち寄ってもらいたい」(ソフトバンクモバイルITサービス開発本部の坂口卓也氏)と各社は提携の狙いを語る。ゲームでありながらネットとリアルを繋ぎ、広告媒体としても広がりを見せているIngressは今後、どのような展開を見据えているのだろうか。グーグル副社長でナイアンティック・ラボ創業者であるジョン・ハンケ氏に、狙いを聞いた。

――Ingressは課金要素のない完全無料のゲームとなっている。

広告モデルだが、単純にスマートフォンの画面上に広告を表示するわけではない。通常のモバイルゲームにはバナー広告などが画面に挿入されるが、私た ちは「スポンサードロケーション」を考案している。これはコストパービジットという考え方で、プレイヤーがポータルとなっている店舗を訪問した回数に従っ て報酬が入る仕組みになっている。だからユーザーには店舗まで足を運んでもらい、たとえば飲み物を手にとってもらうなど商品と交流を持ってもらうことを前 提に考えている。広告主はユーザーフレンドリーであることを基準に選んでいる。

――ゲームタイトルとして、Ingressは黒字化している?

たぶん黒字化していないと思うが、収益には固執していない。いくつか収益源はあって、スポンサードロケーションによる広告収益に加え、IngressのゲームイベントではギアやTシャツを販売している。将来的にはグッズ販売も行っていく予定だ。

――Ingressを開発したきっかけは。

発想の原点は、自分の子供に外で遊んでもらうためだった。そのためのゲームは何かというところから始まった。

もう1つはグーグルアースやグーグルマップに、興味深い訪問地などの情報を提供することだった。そこで焦点を当てたのが、徒歩でのアドベンチャー。単にPCやスマートフォンのスクリーン上で情報を見るのではなく、実際に足を運んで訪問してもらおうと考えた。実際にIngressはアクティブなライフスタイルを持ったユーザーが多く、彼らはゲームというテクノロジーを使って新たな場所へ行く方法を見出してくれた。週末になると自宅やオフィスを離れて、行ったことのない場所へ出掛けるきっかけにしてくれている。人々にアクティブになってもらい、あるいは運動してもらうことで、テクノロジーや情報をマッピングしていくことがIngressの目的だ。

プレイヤー同士が恋愛関係になることも

――ユーザーを維持するために、どういった工夫をしているのか。

ユーザーをつなぎとめるためにもっとも効果的なのは、ほかのプレイヤーとコミュニティで触れ合うこと。プレイヤー同志が友情を育んだり、あるいは恋愛関係になることが多い。6月20日に仙台で開催された大規模なイベントそうだが(写真)、近所に住むプレイヤーが5~6人で集まり、一緒に歩き回りながらおいしいものを食べたり飲んだりする遊び方も増えている。こうしたリアルなコミュニティが、プレイヤーをつなぎ留める上で非常にパワーを発揮する。

Ingressのコミュニティを通じて出会ったカップルに子どもが生まれ、写真と手紙を送ってもらったこともある。最近も赤ちゃんの名前にIngressのゲームキャラクター名づけたという話も聞いており、まさに次世代のプレイヤーも出てきている(笑)。

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