日本経済が何をやってもダメな本当の理由 櫨浩一著 ~生産優先の考え方が長期低迷を生み出す
東日本大震災後も日本経済は大幅な需要不足のもとにあり、食料とエネルギーを除くと物価も引き続き下落傾向にある。長期にわたる経済の停滞が需要側(需要不足)と供給側(生産性の低下)のいずれの要因によるものであるかについては、これまでもさまざまな議論が展開されてきたが、本書には需要側の要因を重視する立場から、独自の興味深い見解が示されている。
本書の大きな特徴は、需要不足を、財政金融政策によって解消可能な一時的な現象というより、日本経済に内在する構造的な要因によるものととらえていることだ。構造的な需要不足の背景には、日本が供給力不足の発展途上段階だった頃の行動様式からいまだに脱却できていないことがあると著者は言う。
「生産力が足りないために貧しい」、「無資源国だから輸出を増やさなくてはならない」という前提にたてば、設備投資の拡大と輸出の促進が重要ということになるが、このような「生産優先の考え方」が消費不足・需要不足を生み、長期にわたる低迷をもたらしている、というのが著者の診立てである。
「お金は使って初めて意味がある」という指摘はまさにその通りであり、「GDP信仰」にとらわれずに消費主導経済への転換を図るべきとの主張もよく理解できる。ただ、長期停滞の原因は需要不足にあり、「生産性の低迷は錯覚」であるという二分法には異論もある。
「お金はあるのに、欲しいものが供給されない」ことが需要不足の原因だとすれば、必要なのは需給のミスマッチを解消するような、供給側の構造調整を進めていくことのはずだ。「何をやってもダメな本当の理由」の一端は、「構造改革なくして成長なし」ということをいつの間にか忘れてしまったことにあるように評者には思われる。
はじ・こういち
ニッセイ基礎研究所研究理事チーフエコノミスト。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学大学院理学系研究科修士課程修了。81年経済企画庁(現内閣府)入庁。旧国土庁、内閣官房などを経て92年ニッセイ基礎研究所入社。2011年より現職。
日本経済新聞出版社 1995円 222ページ
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