国内経済への影響を認めたうえで対処する
いま必要なのは、製造業の海外移転は不可避であることを認め、しかもそれが国内経済に影響を及ぼしうることを正面から認めたうえで、それにいかに対処すべきかを考えることである。
7月8日に公表された「通商白書 2011年版」は、製造業の海外移転の問題も扱っている(第3章第2節)。
国内雇用への影響について、白書は海外移転が必ずしも国内の雇用に悪影響を与えているとは言い切れないと、結論を留保している。その理由として挙げているのは、05~07年の期間に国内で製造業の就業者が増加したことだ。
グラフで見るように、この期間に製造業の雇用が増加したのは事実である。しかし、これは長期的な減少過程の中での例外的現象であり、この期間に為替レートが異常な円安になり輸出が増加したことによる。
なお、製造業の雇用の長期的な減少は、海外移転のためというよりは製造業の競争力が低下したためだ。それによって国内の雇用も減り、海外移転も進展したのである。
全体の雇用は08年までの間は、わずかではあるが上昇を続けている。つまり、製造業が雇用を減らす半面で、他産業(特にサービス産業)の雇用が増えている。製造業から放出される雇用の受け皿になったのが、製造業より生産性の低い飲食、小売りなどであったため、平均賃金が下落したのである。