菅直人首相は、7月13日の記者会見で、「脱原発」への方向づけを表明した。これをめぐってさまざまな論評がなされたが、そこで欠けていたのは、「産業構造の転換によって電力需要を抑制する」という視点だ。行われている議論の大部分は、電力需要を所与とし、脱原発で不足する分を再生可能エネルギーや「埋蔵電力」(企業の自家発電)で賄おうとするものだ。
代替エネルギー源の探求は確かに必要である。しかし、それによって電力の量的制約をクリアできたとしても、発電コストの上昇は避けられない。
また、原発に依存し続けて問題を解決できるかといえば、そうでもない。これまで原子力発電のコストが低いといわれていたのは、必要とされる安全対策のコストを含んでいなかったからである。それを含めれば、原子力発電のコストは決して安くはなかったのだ。
ところで、製造業は電力を大量に使う産業であり、日本全体の電力使用の中で大きな比重を占めている。したがって、製造業が海外に移転すれば、国内の電力使用量はかなり減少する。「脱原発」を目指す場合に最も重要なのは、こうした可能性を検討することだ。
海外移転は「産業の空洞化である」とされ、「ぜひとも避けるべきもの」と見なされている。しかし、そうした固定観念から脱却し、冷静に考える必要がある。
しかも、製造業の海外移転は、震災の前から円高を原因として進展しつつあった。円高はその後も継続しており、7月12日には1ドル=78円台まで円高が進んだ。したがって、「脱原発を行わなければ移転が進まない」ということにはならない。電力事情が移転を加速するのは事実だが、製造業の海外移転はそれとは無関係に進む。
ただし、以上の主張は海外移転が国内経済に悪影響を与えないことを前提にするものではない。以下に見るように、マイナスの影響は十分ありうる。