中小企業の海外移転が加速する
これまでの海外移転は円高により促進されてきた。そして、海外移転が顕著だったのは、自動車産業や電機産業などの組み立て型の製造業であり、しかも大企業が中心であった。
生産ラインの海外移転に伴い、部品生産も移転することが求められる。とりわけ、日本から輸入する場合の関税率が高い場合にはそうである。
海外現地法人の現地調達率は、前述のように上昇している。供給者は現地企業の場合もあるだろうが、自動車の場合は、日本の部品メーカーが海外移転している場合が多いのだろう。
こうして震災前においても、部品メーカーの移転は進んでいたと考えられる。そこに、震災後の電力供給の不安定化などの国内生産条件の悪化が新しい条件として加わった。輪番休止が導入され、親会社の生産ライン操業日が変わると、部品を供給する系列メーカーも合わせざるをえない。そして、それによって過剰な在庫の負担が生じるなど、生産コストは上昇せざるをえない。
そのため、中小企業の系列メーカーも親企業とともに移転せざるをえなくなる。実際、海外移転に関する最近の報道は、ASEAN諸国に向けての中小企業、部品メーカーの海外移転にかかわるものが多い。
震災の影響として「通商白書」が詳細に分析しているのは、サプライチェーン破損の問題だ。その再構築は確かに重要だが、震災でわかったのは、国内における集中ということであろう。
自動車メーカーは、その反省に基づいて、サプライチェーンも含めた生産の海外化を進めていると思われる。そうした方針に合わせて、系列中小企業の部品メーカーのASEANへの移転が増えていると考えられるのである。
地方銀行などがこれを支援する動きも活発化している。これは、震災がもたらした経済的な影響のうち最大のものの一つだろう。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年7月30日号)
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