製造業の海外移転が進めば、国内の雇用にはマイナスの影響を与えざるをえない。そのことをはっきり認めたうえで、製造業よりも生産性が高い産業を国内に作って雇用を創出することを考えるべきだ。
海外移転と国内経済との関係で白書が言及しているいま一つの点は、日本からの中間財の輸出である。これについて白書は、経済危機前に日本からの中間財輸出が増えている(から、海外移転は必ずしもマイナスでない)としている。
しかし、この期間における輸出の増加は、自動車なども含めて、輸出一般について生じたことであり、中間財だけが増加したわけではない。これも異常な円安によって生じたものである。
白書は他方で、中間財についての貿易特化係数(=(輸出−輸入)/(輸出+輸入))が対中国でも対韓国でも低下傾向であることを指摘している。たとえば、対中国の「一般機械」で見ると、1990~08年の間に1近くからゼロ近くまで低下している。
さらに、現地調達率が上昇傾向にあり、日本からの調達率が低下傾向であることを認めている。中国を見ると、05~09年の間に、現地調達比率は50%から66%程度に上昇した半面で、日本からの調達比率は35%から25%程度に低下している。
むしろ、こちらのデータのほうが重要だ。海外移転は中間財を含めて進行していると考えるべきだ。
雇用についても中間財輸出についても、円安がこれまで海外移転にかかわる問題を見えにくくしていたのである。経済危機後に円高が進んだことで、これまでは明らかになっていなかった問題が顕在化したのだ。