「最後に、営業経費に関する野放図な申請です。特に、今回“名寄せ”をして分かったことですが、一部の営業で、ガソリン代や電話代の申請が青天井になっています。」
画面には、1カ月分のガソリン代を合計すると、15万円を超える額を申請している営業スタッフのケースが示された。
「この額は、四六時中上海の街を走り回っているタクシーの運転手が使うガソリン代を上回っています。言いたくはないですが、おそらく、親類縁者や知人の者も含めて申請している可能性が高いと思われます」
沢木は思わず腕組みをして黙り込んだ。まさか、ここまで酷い状況とは思わなかった。いくら売り上げを伸ばしても利益として残らない“穴の開いたバケツ状態”が放置されていたということか。
すぐに財務担当を呼んで話を聞いたが、
「事業が成長して発票のボリュームも増え、機械的にサインしていました」とそう悪びれもせず語る。数度、営業側に指摘したこともあったようだが、「売り上げを上げるのに必要な経費だ」と営業部長から直接電話を受け、強く言い返せず、そのままウヤムヤになってしまったということだ。
このまま成長すればするほど不正なキャッシュアウトも大きくなってしまう。この国は単純な性善説では対応できない。人を信じて任せるためにも、きちんとしたガバナンスの仕組みを築き上げなくてはと固く心に決めた。
中国におけるコンプライアンス問題は根深い
中国におけるコンプライアンスの問題は、経営イシューと切っても切り離せない根深いものがある。
アクセンチュアでも、日系企業から調査依頼を受けることは多いが、財務部門は決算のためのオペレーションに忙殺され、財務専門家としての助言・意思決定支援機能を具備していない、監査機能を果たせていないことが浮き彫りになるケースが散見される。
ゲートキーパーとして派遣されている日本人は何をしているんだ、という声もあろうかと思うが、言葉の問題もあるし、特に“定額発票”という特有の仕組みを持つ中国において、いきなり赴任してきた日本人が不正を暴き出すのは至難の業である。
なお、今回は経費精算の不正がテーマとなっているが、カネを扱うという意味では販促金支払、直接材・部品・間接材などの購買業務なども同様の状況であり、経費精算とは“金額のケタが2つ違う”ことになる。
また、支社や工場立ち上げ時にも不正が入り込みやすい。たとえば食堂の業者と契約をする際に、購買担当者が契約の見返りに1食あたり0.1元の袖の下をもらう契約を取り交わしたとしよう。ほんのわずかに思えるが、1日1000食提供するとして1年で36万5000食となり、これは3万6500元(約70万円)のキックバックを得る計算となる。それが退社まで未来永劫続いていくのだ。
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