世界最悪「有毒ガス事故」から日本が学ぶべき倫理 アメリカ企業がインドで起こした悲劇の根本

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事故は、ユニオン・カーバイド社の本国アメリカの安全基準に沿っていたならば、そもそも発生しなかった。アメリカで許されない、実施しない基準による操業が行われていたのではないか。

人権はどこの社会においても同じく妥当する。アメリカの労働者の人権を保護しなければならないように、インド人労働者の人権も保護しなければならない。それを怠っていたのではないか。つまり、多国籍企業の典型的な二重基準問題としてボパールの化学工場事故はまっさきに取り上げられるケースなのだ。

ナイキやアディダスでもあった二重基準

多国籍企業の二重基準はユニオン・カーバイド社に限ったことではない。

1990年代、アメリカのスポーツ用品の製造会社として有名なナイキは、インドネシアのジャカルタで、16歳以下の子供を1日わずか2ドルたらずで働かせて、運動靴を製造していた。2000年代に入っても、ドイツの有名なスポーツ用品製造会社アディダスが過酷な条件のもと子供の労働力を使ってバングラデシュやインドネシアで製品を製造し先進国に輸出している、と国際的な批判を浴びた。

ナイキもアディダスも、決して本国アメリカやドイツで子供の労働の搾取など行わない。どちらも、スポーツをする若者にとって、手に入れたい「かっこいい」ブランドであり、品質のイメージを大切にしている。それだけに発展途上国での労働の実態には唖然とするし、新たな帝国主義、植民地主義と糾弾されても仕方がない。弁解の余地はないだろう。

過酷な子供の労働や、長時間にわたる労働を強いるなど論外である。それでは、先進国と一律に労働者の権利を保護し、世界中同じ水準で労働形態を考えなければいけないのだろうか。

一方には、人権は世界どの地域においてもかわりはないのだから同じにすべきである、とする考え方がある。これは倫理的な普遍主義と呼ばれる。他方、それぞれの国、地域には事情があるからその事情と状況に応じるべきとする主張がある。郷に入っては郷に従えというわけだ。倫理的相対主義とよく言われる。どちらにも難点がある。

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