テレワーク制限を始めた巨大IT企業という「逆説」 「SNSで歪んだ自由民主主義」を救うのは何か

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古川:庶民の声を届ける手段としてのSNSの利点は確かにあると思います。特に、声を上げることもできない弱い立場にある人にとっては、自分の置かれた状況を社会に直接訴える有効な手段になります。でも、本来的には、そういう人々の声をすくい取るのが中間団体の役割だったはずですが。

むしろ、SNSの利点は、しばしば「圧力団体」とも表現される中間団体の負の側面を牽制する機能にあると言ったほうがよいかもしれません。わかりやすい例は学校のいじめです。学校や教育委員会が組織的に隠蔽して取り合ってくれなかったり、警察も動いてくれなかったりとなると、被害者はSNSを通じて社会に直接窮状を訴えるしかありません。

私が住んでいる旭川市でも、2021年に女子中学生が凄惨ないじめを受けて自殺した事件がありましたが、あれなどはその典型です。学校にも警察にもまったく取り合ってもらえなかった遺族が、SNSで訴えたことがきっかけで社会的な問題になり、ようやく市が再調査に動いたという経緯があります。SNSがなければ泣き寝入りするしかなかったわけで、あのときばかりはさすがの私もSNSがあってよかったと思いました。

そういうふうに社会の不正を告発する上でSNSは大きな力を持ちますが、あくまで補助的・補完的であるべきで、それ自体が主要な手段になってしまうと、結局は全体主義的な社会にしかならないでしょう。

テレワークを制限し始めた巨大IT企業

中野 剛志(なかの たけし)/評論家。1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学工学研究科大学院准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『小林秀雄の政治学』(文春新書)などがある(撮影:尾形文繁)

中野:逆説的かもしれないけど、リアルなコンタクトの重要性を説いた施さんの話で思い出しましたが、実はGoogleみたいな巨大IT企業がテレワークを制限したらしいんですよね。認知エリートたちが、「オンラインだけじゃダメだ、リアルで集まらないと」って判断しているわけ。でもそれって、よく考えたら当たり前のことで、ネットですべてが完結するなら、なんでシリコンバレーにみんな集まりたがるんだろうって話ですよね。

だから、本当に逆説的ですけど、仲間意識とか同胞意識とか、フェローシップとかアタッチメントとか、感情的なものが重要という話だけじゃなく、認知的な面から見ても、イノベーティブなことをやろうとするなら、リアルなコンタクトのほうが依然として処理能力、伝達速度が全然高いのです。マイケル・ポランニーの言う「暗黙知」の共有とかも含めれば、リアルのほうが格段に上だということを、認知エリートの極致にいるような連中だからこそ知っているっていうのか、わかったというのか。

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