「貧しい家の子の成績下げる」アルゴリズムの波紋 イギリスで起きた衝撃、責任は誰にあるのか

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このアルゴリズムは、突然変異体として誕生したあとで山々を越えて逃げていった、フランケンシュタインの怪物とはわけが違う。バイアスは、全国的な成績分布グラフを、過去数年とほぼ同じに保つのを優先する方法を選んだことの副産物だったのだ。

このアルゴリズムによって、進学実績の低い学校や、貧しい地域に対するバイアスがかかったのは当然のことだ。なにせ、その位置に留めておくためにつくられたアルゴリズムだったのだから。オフクァルは、突然変異体をつくりだしたわけではない。彼らは手渡された腐った卵を、最善を尽くしてふ化させただけなのだ。

このアルゴリズムの目的を教育省が最初から明らかにしていれば、試験の結果発表日のずっと前に同省に疑問を投げかけられたはずだ。そして世間や野党は、「成績インフレを抑えること」を第一の目標とするのが正しいのかどうか、同省に問えたはずだ。

教育大臣が「アルゴリズムは使わない」と発言

『ヤバい統計 政府、政治家、世論はなぜ数字に騙されるのか』(集英社シリーズ・コモン)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

2021年初め、教育大臣のギャヴィン・ウィリアムソンは、この年の中等教育修了一般資格とAレベルの成績判定方法について、「何があってもアルゴリズムは使わない」と満面の笑みで保証した。「この私が見張っているかぎり、突然変異によって大混乱が引き起こされることはない」ということなのだろう。

仕組みをつくった当人に責任を負わせるのは、真っ当なことなのだろうか。この質問の答えは明らかに「いいえ」だが、そこからもう一歩踏み込んで考えるべきことがある。

大臣たちは、全体的な目的は定めるが、それを目指すことによってどんな副産物が生じる恐れがあるかについては、各省の職員たちからの提言に頼っている。大臣たちは、担当する省が行っている、あらゆる技術的な作業をすべて逐一管理すべきなのだろうか。あるいは、そもそもそれは可能なのだろうか。

しかも、その分野の専門家でない人物が、どうすれば効果的に管理できるのだろうか。政策のためのアルゴリズム設計とは、政治的な選択と技術的な選択のあいだを行ったり来たりして行われるべきものなのだ。

(後編:3月19日配信に続く)

ジョージナ・スタージ 統計学者(英国議会・下院図書館所属)

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Georgina Sturge

統計学者(英国議会・下院図書館所属)。専門は公共政策の計量的分析。英国国家統計局の人口・移民統計に関する専門家諮問グループの一員。国会議員のために調査を行い、統計の利用法や背景情報を解説する上級統計学者。オックスフォード大学移民観測所の顧問も務める。2011年、オックスフォード大学卒業(英文学)。2013年、マーストリヒト大学修士課程修了(公共政策及び人間開発)。

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尼丁 千津子 英語翻訳者

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あまちょう ちづこ / Chizuko Amacho

英語翻訳者。神戸大学理学部数学科卒業。主な訳書に『人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う!』『「ユーザーフレンドリー」全史』『馬のこころ』『マッキンゼー CEOエクセレンス』『限られた時間を超える方法』など。

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