京都の織物には1500年の歴史があるが、多品種少量生産、先染めの「絹織物」である西陣織のなかでも、誉田屋源兵衛の主力商品は、数十万円から数百万円の女性着物の「高級帯」だ。
伝統と歴史、技術と美を兼ね備えた西陣織は、前述の世界的な欧州ラグジュアリー企業、そして博物館や美術館より惜しみない尊敬の念を集めている。
世界のラグジュアリー企業が憧れる京都・西陣織
数年前、誉田屋へは「フランスのシャネル本社より経営陣以下、社員100名の研修での訪問があった」という。
フランスから日本まで、渡航費だけでも数千万円の費用がかかると思われるが、これはいったい、何を意味するのだろうか。
シャネルが世界トップのラグジュアリーブランドであり続けるためには、世界最高峰の「美」を学ぶことが必要であり、京都の西陣織がその対象となったことにほかならない。
源兵衛氏が奏でる「美」を理解するために、自ら京都へ足を運び、織元の古商家の匂いを感じ、両目で色や形を見て、作家と対話し、作品に直に触れる。五感すべてを使って学ぶ企業研修だ。
旅行や留学などがわかりやすいが、「テレビやネットで得た情報」と「五感を使った体験」では、得られる情報量が大きく違い、それは体験者の真の血肉となる。
シャネル幹部の多くは作品を見て涙を流し、現在、京都の国際イベントにおけるシャネルが協賛した作品の展示場として、誉田屋に場所を求めている。
また、ロンドンの中心街、世界中の歴史的価値のある装飾芸術やデザインを所蔵しているヴィクトリア&アルバート博物館には、十代目山口源兵衛氏の帯も永久貯蔵されている。
20人の職人が腕を振るう誉田屋では、年300本ほどの帯商品の生産の傍ら、非売品のアートとも言える「作品」を年1~2本作成している。
商品も作品も、作家の情熱や想い、職人たちの汗と努力など、さまざまなストーリーが織り込まれる一点物であるが、年1本の作品へ投入される熱量は桁違いだ。
十代目は、同美術館でのパネラーとしてイギリスに招かれており、人類における衣類というテーマについて聴衆の前で識者と議論を交わした。
「美術館や博物館に作品が所蔵される」とは何を意味するのか。その作品が「美術史や人類史の歴史にとって重要なもの」という、キュレーターや学芸員の判断があったということである。
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