世界が憧れる京都「西陣織」はエルメスになれるか シャネル幹部も感涙する「美」その魅力と課題

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源兵衛氏は、ヴィクトリア&アルバート博物館への訪問時に、そこに展示されている世界の数々の織物を目にして「ひいき目と言われるかもしれないが、日本の織物の質の高さや歴史は、人類の衣類の中でも飛び抜けた存在である」ことを改めて認識したという。

源兵衛氏は、衣食住の「衣」の本質を後世に伝えるべく、京都の地元の中学・高校を誉田屋に招くなど、学生向けにもさまざまな機会で日本の和装などの歴史文化の啓発を続けている。若い頃から、一流に触れる機会があることは心からうらやましく思う。

「孔雀の羽を織り込んだ帯」が過去と未来をつなぐ

築100年の古商家の立派な柱と梁を横目に誉田屋の2階に上がると、息をのむような美しさと、色とりどりの光沢のある「帯作品」が並ぶ空間にたどり着く

ここには十代目山口源兵衛氏の過去50年の作品の中でも指折りのものが展示されている。

その中でも一際に目を引くのは、見る角度により色や輝きが変化する魅惑的な緑色の帯、「孔雀の羽の繊維を数万本織り込み、2年の歳月を経て完成した唯一無二の作品」である。

誉田屋が制作した帯
孔雀の羽根で織られた「孔雀羽根織」(撮影:WealthPark研究所)

日本は元寇の襲来時に毒矢を知り、その後、毒への耐性が強い孔雀は武士の憧れとなった。

上杉家や井伊家の当主などが使用したと考えられる孔雀の羽を織り込んだ陣羽織が現存しているが、状態が著しく悪化しており、衣類に刻まれた当時の武士たちの生きざまを未来へ引き継げなくなっていた。

山口源兵衛氏と職人たちは、2年の歳月をかけて、10cm以下の短い孔雀の羽を何万本も織り込むことで、当時の戦国武将の戦いへの想いや風俗を現代に蘇らせたのだ。

「職人たちへの負担が重すぎる。私の代では二度と同じものは作れない」。ただし、この帯の製作により、日本の過去と未来は確実につながったのだ。

山口源兵衛氏は「衣類とは、かつては大地の命を受け取るものであった」過去、衣類は極めて貴重な代物であり、それぞれの時代の風俗や文化が織り込まれている生命である」と語る。ファストファッションの時代に身を置いている我々には、身につまされる話である。

山口源兵衛氏が帯の作品にする題材は、過去の衣類の復活にはとどまらない。

藤田美術館所蔵の国宝曜変天目茶碗、俵屋宗達の作品、外国の美術品まで、価値あるものを帯という横幅32cmの世界へ表現し、過去と未来の人類の芸術を紡ぎ、また西陣織の技術をさらなる高みへと押し上げている

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