「週刊誌を訴える」芸能人続出が暗示する"臨界点" 松本人志、デヴィ夫人ら相次ぐ提訴は何を意味するのか

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彼女は「どちらも身に覚えがないことなのに、なぜ同じ内容を書かれたのかわからない」というニュアンスで語っていました。誰かが嘘の証言をしているのか。それとも、取材せずに他誌の情報をもとに書いたのか。『週刊新潮』が「モンスター妻」、『女性自身』が「鬼妻」という近いフレーズで書いたことなども含め、週刊誌報道が過激な内容でシンクロしている不自然さや不気味さを伝えたかったのではないでしょうか。

「報じる側」も「報じられる側」も疲弊

各週刊誌の編集部と長いつき合いがあるからこそ筆者が気がかりなのは、現場の編集部員や外部スタッフの疲弊。日々、過激な切り口や見出しの記事を求められ、張り込みや聞き込みを続け、事件・不正・不倫など人間の暗部にふれ続け、他人の人生を大きく変えてしまったという罪悪感を抱かされる。

さらに最近はネット上に「編集長や記者の素行を調べろ」「記事を書いた記者の実名をさらせ」などの物騒なコメントがあがるなど、本人たちがストレスや恐怖を感じさせるような機会が増えています。

このままの状況が続けば、報じられる芸能人も、報じる週刊誌の編集部員も、「心身を病んでしまい、命にかかわる最悪の結果を招く」というリスクが高まっているのではないでしょうか。このところ記事が報じられるたびに、芸能人か週刊誌のどちらかが批判されるケースが続いていますが、両者とも危うい状態に見えてならないのです。

その意味で今回の「芸能人が週刊誌を提訴」という流れは、「命の危機というレベルまで近づいてきている」という警鐘なのかもしれません。少なくとも私たちは芸能人にかかわる過激な切り口や見出しの記事が報じられても、瞬発的に批判の声をあげることなく、落ち着いて推移を見守るというスタンスを採りたいところです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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