「不適切〜」中盤での急転直下でこれから起こる事 震災描いてきた宮藤官九郎が対峙しているのは

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第4話までは、ミュージカルシーンは、ともすれば説教くさくも感じる社会へのメッセージを歌と踊り仕立てにすることで、親しみやすいものになっていたが、第5話ではメッセージ性はなりを潜め、ただ、生真面目に、義父のためにスーツを仕立てる男の思いの歌なのである。

仕立て屋になりたてのゆずるが一所懸命、1つひとつ工程を確認しながら作っていく。そして、30年後のゆずるは、熟練の腕前になっている。同じ歌に新人から熟練への時間の経過が滲むという、見事な脚本。筆者はここに、ひたむき丁寧に作ることの尊さを感じた。

時代の価値観によってよいとされたり不適切とされたりするのではない、まわりが変わってもけっして変わらないことはあるのだと。小川の体型が1986年と1995年で変わっていなくて、スーツがぴったりであったように。

「ふてほど」が問いかけていること

誤解をおそれずに言えば、宮藤官九郎はきっとデビューから変わっていない。もちろん、年齢とキャリアが上がるとともにスキルは上がるし、視野も広がり、その都度、興味をもつ題材も変わるだろう。落語や歌舞伎、ゆとり世代など、いろいろなものを取り入れてきた。けれど、本質はきっと変わっていない。

バイクで疾走するような速度と熱量と情報量の密度の濃さ、最高におもしろいものを作ろうとする気持ちや、10代のときに好きで影響を受けたものなどが、彼を形成していて、人間とは存外そういうもので、そんなところが共感されるゆえんではないだろうか。『不適切にもほどがある!』はその人にとって、誰に何を言われようと、大事なもの、守りたいものは何ですか?と問いかけているような気がしている。

木俣 冬 コラムニスト

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きまた ふゆ / Fuyu Kimata

東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。

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