「政府予想」「具体的数字」すら当てにならない理由 明確な数字ともっともらしい話は詐欺師の手口

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すでにご承知のとおり、「パンデミックはまもなく終焉する」という、ハセットが立てた予想は、間違いだった。2020年5月半ば時点で、アメリカでは毎日約1500人の死亡者数を記録していた。

根拠のない正確性が、判断を鈍らせる

極端に楽観的な予想を立てたのはトランプ政権だけではなかった。イリノイ大学は、2020年の秋学期が始まる前、ある「最悪の場合」とする予想を立てた。それはアーバナ・シャンペーン校のキャンパスにおいて、感染者数は常に100人以下で、数週間以内に1桁に下がり、学期全体で合計約700人が感染するというものだった。最悪の事態を予想する人がいるときはいつも、慎重になるべきだ。ほぼどんなときでも、それよりもさらに悪い事態というのは存在するからだ。

実際は、そのキャンパスでは3923人の感染が11月下旬までに確認され、平均で1日当たり40人の新規感染者がいたことになる。ホワイトハウスのキュービックモデルとは異なり、イリノイ大学のモデルは数学的に厳格だった。しかし、キュービックモデル同様、大学が出した結論が土台としていた初期の想定には欠陥があった。

モデル自体が問題なのではなかった。問題は、そのモデルを人々がどのように解釈し、活用するか、にあったということだ。おそらく、この予想のもっとも恐ろしい点は、根拠のない正確性だといえる。

完全な遠隔教育を避けたいと思っていたイリノイ大学の理事らは、700人という正確な「最悪の事態」の予想に喜んで従っただろう。トランプ政権は新型コロナウイルスに関する課題を実際よりも小さく見せたかったために、死亡者がゼロに急降下するという正確な予想を容認した。

数週間で新型コロナウイルスの死亡者がゼロになるという予想は、あまりにも都合のいい話で現実には起こらないように見えたし、実際に歴史がその証人となった。現実にはあり得ないほど都合がよすぎる話には、たいてい具体的な数字や、もっともらしい説明が伴っている。

私たちはみな、正確性があれば説得力があると思う。私たちをだまそうとする人もまた、厳密な数字を提示するものだ。そして私たちはその数字が約束するものに惹かれているからこそ、簡単にだまされてしまう。

ダニエル・シモンズ 心理学者

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Daniel Simons

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校心理学部教授。同校の視覚認知研究所ディレクター。過去にハーバード大学心理学部の助教授および准教授も務める。カールトン・カレッジで学士号を、コーネル大学で実験心理学の博士号を取得。視覚認知と視覚認識の分野で世界有数の研究者であり、人間の知覚、記憶、認識の限界について先駆的な発見をしてきた。「見えないゴリラ実験」で、2004年にイグ・ノーベル心理学賞をチャブリスとともに受賞している。

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クリストファー・チャブリス 心理学者

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Christopher Chabris

ペンシルべニア州の統合医療機関である「ガイジンガー」教授。行動・意思決定科学プログラムの共同ディレクターおよび行動洞察チームの教員共同ディレクターを務める。過去にハーバード大学やユニオン・カレッジでも教鞭を執る。「心理科学協会(Association for Psychological Science)」フェロー。主な研究テーマは意志決定、注意力、知能、行動遺伝学。シモンズとの共著に『錯覚の科学』(文藝春秋、21カ国で出版)がある。

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