「政府予想」「具体的数字」すら当てにならない理由 明確な数字ともっともらしい話は詐欺師の手口

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新しい販促キャンペーンの結果、単に「売り上げが伸びる」と予測するモデルよりも、「〇〇ドルまで売り上げが伸ばせる」と正確に予測するモデルのほうが優れている。明日、雨が降ったあとに晴れると分かるのは便利だが、予定している午後2時のアウトドア・ウエディングまでには雨が上がると分かるほうが、ずっとよい。

トランプ政権作成のコロナ感染モデル

しかし、正確なモデルは、データや、結果の観察によって検証できる数値よりも、モデルから出力された数値のほうがより厳密な数字だった場合に、誤った印象を与えてしまう。気象モデルが確度を欠き、1日中雨であれば、そのモデルの正確性がどれほど高くても、「使えない」と私たちは見なしてしまう。

「確度(アキュレシー)」と「正確性(プレシジョン)」は、よく混乱しがちだが、根本的に異なる概念だ。確度の高い測定ツールは正答に近いものを提示する。正確性の高い測定ツールは、詳細で矛盾のない回答を提示するが、それが正しいか誤りかどうかは関知しない。

2020年5月初旬、アメリカでの新型コロナウイルス感染症による死亡者の報告が比較的少なかったころ、トランプ政権は、政権内の対策委員会からの助言や、6月1日までに死亡者数が「20万人に達するだろう」と予測した専門家の意見に反し、公衆衛生上の制限を解除しようとした。ホワイトハウスは、独自の「キュービック」モデルを強調しその政策を正当化した。そのモデルは、1日の死亡者数が5月15日までに「ゼロになる」と予想するものだった。

トランプ政権でこのモデルを構築したのは、感染症の専門家でも疫学者でもなく、大統領経済顧問のケビン・ハセットだった。彼は、大量のデータをさまざまな形状の傾向線で表示できるマイクロソフト・エクセルの関数を試し、楽観的な予想になるまでそれをくり返したらしい。

キュービックモデルは2度、方向を変える。最初は高い数値を出し、その後下降し、そして上昇し、再び下降する。もしくは、低い値から出発し、上昇し、下降し、再び上昇する。曲線の始点で起こる事象によって、そのデータが終了し外挿が始まる方向性が決まる。

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