ウクライナが「守勢」を余儀なくされている理由 「勝ちすぎ」を恐れたバイデン政権の思惑が裏目に

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そして、自らに対し融和的とみられるトランプ氏が大統領選で返り咲きを果たすのを待つ戦略だろう。トランプ氏がロシアに有利な、何らかの「解決案」をキーウに押し付けることも期待しているのだろう。

停戦協議をちらつかせるロシア

その意味で注目されるのは、最近ロシアがウクライナとの停戦協議に応じる可能性をほのめかすプロパガンダ(政治宣伝)戦略を世界規模で展開し始めた兆候があることだ。

最近、各国では増え続ける兵士・市民の犠牲を目の当たりにして、「戦争疲れ」の傾向も次第に目立ち始めている。これを利用して、クレムリンとしてはウクライナに対し、停戦に応じてロシアへの大幅譲歩を迫る機運を各国で盛り上げる戦略だろう。

しかし、停戦と言っても、独立国家としてのウクライナの存在を認めていないプーチン氏に、ウクライナ全土の制圧作戦を行うための再編期間を与えるだけだ。

ウクライナへの「支援疲れ」も一部で出ていた欧州もこのところ、ロシアに対する防衛問題を、アメリカ依存ではなく、より「自分事」として動き始めている。NATO加盟国への攻撃の可能性を現実問題として捉えているからだ。

欧州連合(EU)は2024年2月の臨時首脳会議で、2024~2027年の4年間にウクライナ支援へ計500億ユーロ(約7兆9500億円)を充てることでスピード合意した。さらに軍事産業強化にも乗り出した。とくに砲弾の供給体制を強化しようとしている。

EUは2024年3月までにウクライナに100万発の砲弾を送る目標を掲げていたが、生産能力の不足から、結局期限内に供与できるのはその約半分にとどまる見通しだ。この反省から、生産能力の拡充に努めており、2024年末までに年産140万発水準まで引き上げる計画だ。

こうした欧州の懸命な動きを見て、筆者が思うことがある。日本政府は憲法上の制約があり、殺傷能力がある兵器のウクライナへの直接的供与が難しい。しかし、砲弾不足にあえぐウクライナに対し、特例として砲弾そのもの、あるいは砲弾用火薬の供与に踏み切る方向へ知恵を絞る時期にきているのではないか、と。

日本政府は先にウクライナの復興支援策を話し合う「日ウクライナ経済復興推進会議」を東京で開催し、紛争終了後の復興を主導する姿勢を明確にした。これはウクライナにも高く評価され、感謝された。しかし、ゼレンスキー政権として、今そこにある「砲弾危機」への対応として、日本からも支援を受けたいというのが偽らざる本音だ。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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