ウクライナが「守勢」を余儀なくされている理由 「勝ちすぎ」を恐れたバイデン政権の思惑が裏目に

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2023年の広島でのG7首脳会議の際に出されたウクライナ関係の声明には、この「勝利」の言葉は入っていなかった。

これに関連して最近、興味深い報道があった。アメリカ下院で宙ぶらりん状態になっている、ウクライナ支援(約600億ドル=約9兆円))を含む緊急予算案が今後承認された場合、アメリカ政府がただちにATACMSを供与する方針を決めたとアメリカ・NBC放送が報じた。F16も早ければ6月にも欧州から第1陣が供与されるとみられている。

ウクライナは全領土奪還を堅持

一方で、ゼレンスキー政権は東部戦線で受け身を余儀なくされつつも、ロシアへの勝利に向けた強い意思を保っている。最近発表された世論調査でも、国民の70%以上が戦争継続を支持しており、2014年のクリミア侵攻以来、ロシアに奪われた全領土奪還方針を堅持するゼレンスキー政権には十分な政治的正当性があると言える。

ロシア軍に比べ圧倒的に少ない砲弾の保有数回復や、攻撃用ドローンの一層の拡充など軍事態勢面の整備を急ぎながら、2024年を2025年以降の勝利に向けた準備の1年にする構えだ。

まずは東部・南部における前線をしっかり守る「戦略的防衛」戦略を実行する。そのうえで、何らかの反攻作戦を行う構えだ。ゼレンスキー氏もアメリカのテレビとの会見で、驚くような攻撃をするとの趣旨の発言をした。ミハイル・ポドリャク大統領府長官顧問も最近のインタビューの中で「地上戦で、より効率の良い作戦が必要だ。守っているだけではだめだ」と述べている。

その場合、どのような攻撃をするのか。執拗な水上ドローンによる攻撃で、黒海艦隊の作戦実行能力を事実上奪ったのを受け、艦隊司令部があるクリミア半島とロシア本土を結ぶクリミア大橋を破壊するのか。あるいはロシア領内で大規模なインフラ攻撃を行うシナリオなどが指摘されている。守りと攻めの両立を本当にできるのか。シルスキー氏の手腕が問われる。

一方、2024年3月半ばに大統領選を控えるプーチン氏は、アブデーフカ制圧を受け軍事的にも外交的にも自らが状況を動かせる主導権を握ったと判断しているだろう。東部に加え、今後南部でも攻勢を仕掛けるとみられる。

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